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開発技法・工程 2024.05.07
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KPTとは?振り返りのフレームワークのやり方や取り入れるメリット・ポイント

執筆: 江添 智之

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長

KPTとは?振り返りのフレームワークのやり方や取り入れるメリット・ポイント

ビジネスのプロセス改善には、適切な業務の振り返りが欠かせません。こうした業務の振り返りに有効なフレームワークが「KPT(ケプトまたはケーピーティー)」です。

KPTはソフトウェア開発で広く採用されていますが、業種を問わず業務の振り返りに活用できます。

今回はKPTとは何か、基本からわかりやすく解説します。KPTのやり方やポイント、役立つツールも紹介するため、ぜひ参考にしてください。

もくじ
  1. 振り返りを行うフレームワーク「KPT」とは
    1. Keep(継続)
    2. Problem(問題)
    3. Try(挑戦)
  2. KPTを取り入れるメリット
    1. 効率的に振り返れる
    2. 次の方針を決めやすい
    3. チームで情報共有しやすい
  3. KPTを用いた振り返りのやり方
    1. フォーマットを用意する
    2. 各自でKeep・Problemを抽出する
    3. 会議でKeep・Problemを整理する
    4. Tryを抽出・共有する
    5. Tryを実行する
    6. 会議でTryの結果を確認する
  4. KPTを取り入れる際のポイント
    1. 定期的に振り返りを実施する
    2. 意見を出しやすい環境を作る
    3. 会議にファシリテーターを設置する
  5. KPTに役立つツールをご紹介
    1. Trello
    2. KPTon
    3. ラジログ
  6. まとめ

1.振り返りを行うフレームワーク「KPT」とは

KPTとは、Keep(継続)・Problem(問題)・Try(挑戦)の3要素で各情報を整理しながら業務の振り返りを行うフレームワークのことです。各要素を業務に取り入れることで、チームの課題を早期に発見し、チーム意欲向上や目標達成につながります。

ここでは、KPTを日々の業務に落とし込むイメージをつけるため、KPTの各要素の意味や活用例を解説します。

1-1 Keep(継続)

Keep(継続)は、「今後も継続したい、よかったこと」を指します。つまり、成果につながった施策や達成できたことなど、次回の業務でも維持していきたいポジティブな要素です。

たとえば、「テスト自動化ツールの導入により、テスト工数を30%削減できた」といった事柄が挙げられます。よかった事柄であるとわかるように具体的な数値を入れるとよいでしょう。

1-2 Problem(問題)

Problem(問題)は、解決・改善したい問題点を指します。ただしクレームや不具合、目標未達のような目に見える問題点だけでは不十分です。できなかったことや上手くいかなかったこと、よくなかったことなど、些細でもできる限り抽出します。

たとえば、「進捗状況が可視化されておらず、フォローが遅れがちになる」といったProblemが挙げられます。何が問題なのか明確にわかる形に落とし込みましょう。

1-3 Try(挑戦)

Try(挑戦)は、今後の業務で挑戦したい施策を指します。Problemの問題点を解決するための施策や、Keepをさらによくするための施策など、ProblemやKeepを元にした施策が前提です。

たとえばProblemに対するTryを考える場合は、「プロジェクト管理ツールを導入し、進捗状況の更新・確認を徹底する」のような対策が挙げられます。Keepの改善やProblemの解決につながる具体的な施策として落とし込みましょう。

2.KPTを取り入れるメリット

KPTは、業務の振り返りに有効な手法として広く認知されており、ソフトウェア開発に限らず幅広い業種で取り入れられています。KPTを取り入れるメリットは、主に次の3つです。

2-1 効率的に振り返れる

KPTを取り入れることで、業務の振り返りを効率的に行えます。Keep・Problem・Tryの3要素で切り分け、それぞれに対して項目を抽出するのがKPTの基本です。これにより情報がわかりやすく整理され、継続したいことや解決したい問題点の混在を防げます。

また、「Keep→Problem→Try」とシンプルなフレームワークで、順番に沿って振り返りを進めていくだけなので、業種やスキルに関わらず理解しやすいでしょう。最近はソフトウェア開発では、短いサイクルで開発を繰り返す「アジャイル開発」が普及しています。毎サイクルでの業務振り返りを効率化するために、KPTを取り入れる企業やチームは少なくありません。

2-2 次の方針を決めやすい

KPTを取り入れることで、次の方針を決めやすくなります。継続すべき事柄をKeep、解決・改善すべき事柄をProblemに落とし込み、それらを方針のベースにできるためです。そして、Keepの改善やProblemの解決につながるTryを考えれば、おのずと方針が見えてきます。

また、Tryはアクションプランとして、各メンバーに「次にやるべきこと」を教えてくれます。ただ振り返るだけでなく、方針に沿った行動を実行しやすくなるのもメリットです。

2-3 チームで情報共有しやすい

KPTを取り入れることで、振り返りに関する情報の共有が容易となります。Keep・Problem・Tryという分け方はシンプルで、メンバー全員が理解しやすいでしょう。フォーマット(詳細は後述)もシンプルなため、問題やアクションプランを迅速に把握できます。

また、KPTを用いた振り返りは、チーム内の会議で洗練させていくことが前提となります。会議を通してKPTを共有すれば、メンバー間の相互理解が深まっていくでしょう。なお、Web上でKPTに関する情報をより効率的に共有したい場合、TrelloやKPTon(詳細は後述)などのツールが役立ちます。

3.KPTを用いた振り返りのやり方

KPTはシンプルなフレームワークですが、正しい手順で進めていくことが大切です。ここでは、KPTを用いた振り返りの大まかなやり方を6ステップに分けて紹介します。なお、KPTの進め方は企業やチームによって変わる場合があります。

3-1 フォーマットを用意する

まずは、K・P・Tをリストアップするためのフォーマットを作成します。以下はフォーマットの一例です。

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左側にKeep・Problemの枠、右側にTryの枠を用意する形がポピュラーとなっています。表示形式は、紙やホワイトボード、ITツールなど、チームによって様々です。

3-2 各自でKeep・Problemを抽出する

次に、各自でKeep・Problemを抽出します。いきなり会議でKeep・Problemを出し合うやり方もありますが、事前に各自で準備しておくほうが会議はスムーズに進むでしょう。

Keepには、今後も継続したいよかった事柄、Problemには解決・改善したい問題点を挙げます。メンバー自身だけの事柄だけでなく、チーム全体に関わる事柄も含めて洗い出しましょう。Tryは会議で決めますが、簡単に抽出しておくことが理想です。

3-3 会議でKeep・Problemを整理する

続いて、チーム内で会議を開催し、Keep・Problemを整理します。各自が紙やITツールなどで抽出したKeep・Problemを共有し、チーム全体でまとめます。ホワイトボードにKPTのフォーマットを用意し、各自が付箋で項目を追加していく方法がポピュラーです。

挙がったKeepやProblemは、各自が理由を説明し、チーム全体で事実関係を明確にしましょう。たとえば、AさんがKeepと認識する事柄でも、BさんはProblemと認識するケースもあります。チーム内でKeep・Problemに対する認識のずれを無くし、整理していきましょう。

3-4 Tryを抽出・共有する

KeepとProblemを整理できたら、Tryを抽出します。Tryの抽出も会議で行うことが理想です。Keepの改善やProblemの解決につながるTryを考え、具体的な施策を出し合いましょう。Problemの解決を優先し、次にKeepの改善を考えることが一般的です。

挙がったTryについては、KeepやProblemに対して本当に効果が期待できるのか、チーム内で協議します。また、Tryはアクションプランとなるため、「誰が・いつまでに・何をするのか」といった情報まで落とし込みましょう。確定したTryはチームで共有します。

3-5 Tryを実行する

チーム内で確定したTryのアクションプランを各自で実行に移します。各自のアクションプランに対する取り組み状況は、チーム内に定期的に共有しましょう。特に、Tryの実行時に致命的な問題が発生した場合は、チーム内で迅速に対応方針を協議するべきです。

3-6 会議でTryの結果を確認する

各自が取り組んだTryの結果を再度の会議で確認します。Tryをどの程度まで達成できたのか、成果(Problemの解決やKeepの改善)につながったのかなどをチームで明らかにしましょう。

Tryを達成できた場合は「Keep」、達成できなかった場合は「Problem」に変更することも検討します。そして、これまでのステップを繰り返し実施していきます。Tryを達成しながらProblemの減少・Keepの増加を図り、プロセス改善につなげていきます。

4.KPTを取り入れる際のポイント

KPTは業務の振り返りに有効なフレームワークですが、ポイントを把握していないと成功にはつながりません。KPTを取り入れる際には、次の3つのポイントを押さえておきましょう。

4-1 定期的に振り返りを実施する

業務の振り返りを定期的に行うことで、KPTの効果が高まります。1サイクル実施して終わるだけでは、あまり効果が期待できないでしょう。

まずは定期的にKPTの会議を設定して、振り返りを習慣化することが大切です。定期的な会議によってKPTに連続性が生まれ、次の振り返りに向けて確実にTryを行動に移せます。

4-2 意見を出しやすい環境を作る

多くの意見を集めることでKPTの精度を高められるので、自然と意見を出しやすい環境を作りましょう。KPTの会議では、Problemを挙げる際に個人批判が起きやすく、会議の雰囲気が悪化しがちです。こうした事態を恐れて、メンバーが有用な意見を出せないケースも少なくありません。

各メンバーが意見を出しやすくするために、会議のルールや開催方法を工夫しましょう。

たとえば、「発言途中で割り込まない」「Problemに個人名を入れるのはNG」といったルールを決めておくのも1つの方法です。また、Keepから先に掘り下げることで雰囲気を良くする、リラックスしやすい場所で開催するなどの工夫も考えられます。

そして、Keepが0件ということは無いようにしましょう。特に炎上プロジェクトだと、Keepは出にくいことが多いです。しかし、その中でも何か良いことはあったはずなので、意識して出すようにしましょう。

4-3 会議にファシリテーターを設置する

KPTの会議は、個人の意見がぶつかり合って収拾がつかなくなるケースもあります。

そこで、会議を円滑に進めるためにファシリテーター(進行役)を設置することが効果的です。ファシリテーターは、進行管理や各人への問いかけなどを行い、会議をリードします。

ファシリテーターの役割は、チームのリーダーや管理者が務めるとよいでしょう。ファシリテーターを設置することで議論の発散を防止でき、効率的に会議を進められます。ファシリテーターの問いかけにより、有用な意見が引き出せる可能性もあります。

5.KPTに役立つツールをご紹介

KPTは、紙やホワイトボード、付箋を用いたアナログ式の実施もポピュラーです。しかし、オンラインで使えるツールを活用することで、チームメンバー同士の共有や引き継ぎがスムーズになり、KPTの振り返りを効率化できるでしょう。

ここでは、KPTに役立つツールを3つご紹介します。

5-1 Trello

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出典:Trello

「Trello」は、無料でも使えるチーム向けのタスク管理ツールです。「カード」という形で付箋のようにタスクを登録でき、Keep・Problem・Tryの各項目を手軽に作成できます。各カードの進捗をチームで共有できるため、Tryの状況把握も容易となります。KPTによる振り返りに限らず、日々のタスク管理にも役立つツールです。

5-2 KPTon

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出典:KPTon

「KPTon」は、KPTによる振り返りに特化したツールです。サービス上にホワイトボードを作成し、Keep・Problem・Tryの各項目を手軽に作成できます。KeepやProblemを見られたくない場合は、個人用ホワイトボードを使うと便利です。過去のTryを会議時に素早く参照できるため、前回の結果をチェックしやすいでしょう。

5-3 ラジログ

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出典:ラジログ

「ラジログ」は、KPTに対応した日報作成が可能なツールです。「Slack」や「GitHub」などのツールと連携し、各メンバーの行動履歴をログで確認できます。Tryの達成状況を共有する際にも役立つでしょう。

まとめ

KPTとは、Keep(継続)・Problem(問題)・Try(挑戦)の3要素で構成された業務の振り返りを行うフレームワークです。

振り返りを効率的に行えるだけでなく、方針決定や情報共有を迅速化するメリットもあります。

KPTは幅広い業界の振り返りに活用できますが、ソフトウェア開発でも効果的です。特に、振り返りが頻繁に発生するアジャイル開発などで高い効果を発揮するでしょう。

ソフトウェア開発の成果を高めるには、KPT以外にもさまざまな手法や考え方について学ぶことが大切です。学習の際は、ぜひ当サイト「Qbook」をご活用ください。

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執筆: 江添 智之

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長

WEB系、エンタープライズ系、医療系など様々な開発業務にプログラマ、システムエンジニア、プロジェクトリーダーとして携わった後、バルテスにてテストエンジニア・コンサルタント業務に従事。現職では主にテスト業務に関する研究開発および人材育成を担当。Scrum Alliance認定スクラムマスター、ディープラーニング検定(G資格)、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、JSTQB Advanced Level(テストマネージャ、テストアナリスト)など、ソフトウェアの開発およびテストに関する資格を多数取得。JaSST Kansai 実行委員。現在の関心は機械学習のテスト分野への応用と効率的なテスト自動化。