インターネット上には、現実と虚構の境界を曖昧にしてしまうような、数多くの怖い話や都市伝説が存在しています。
これらの物語はデジタル時代の新しいフォークロア(民間伝承)として、多くの人々の興味を惹きつけてやみません。
今回は、そんなSNSやネット掲示板で広まる「怖い話」=「クリーピーパスタ」の中から入門編として、いくつかをご紹介します。
- もくじ
1.世界中にじわじわと広がる「クリーピーパスタ(Creepypasta)」
1-1 クリーピーパスタ(Creepypasta)とは?
「クリーピーパスタ(Creepypasta)」とは、インターネット上で広まる怖い話や画像、動画、都市伝説の総称です。
「不気味な」を意味する「creepy」とコピー&ペースト(copy and paste)のネットスラング「copypasta」を組み合わせて生まれた造語です。端的に言うと「ネット上でコピペによって広まる、真偽不明の現代の怪談」がクリーピーパスタということになると思います。
クリーピーパスタの特徴として、以下のような点が指摘されています。
オンラインで広がっている
インターネット上で作られ、発表されたことが多く、ネットで共有されている物語です。
ビジュアル要素が豊富
テキストだけでなく、怖かったり、不気味だったりする画像や動画になっていることも多いです。YouTubeなどに動画として投稿されるケースも目立ちます。
テーマが多種多様にわたる
殺人、自殺といった社会的な事件だけでなく、超常現象・オカルト、都市伝説、宇宙人など、様々な内容がクリーピーパスタの題材になっています。
短いお話が多い
簡潔で読みやすい、短いストーリーが多いのが特徴です。
作者が判明しているケースがある
クリーピーパスタの多くは匿名のインターネットユーザーが発信源となりますが、最近では作者が明らかな作品や、コラージュされた元ネタが特定されているケースが増えています。
他にも、「本当かもしれない」と思わせる、現実の出来事のような話が多いことや、現実の事件と関連のあるものが多いことが指摘されることも多いです。「怪談」というよりも「ホラー」のニュアンスが強いかもしれません。
1-2 クリーピーパスタの起源は?
クリーピーパスタの起源は、2000年代初頭に、インターネット掲示板やフォーラムで共有された都市伝説や怪談話に遡るようです。
「4chan」の「/x/」(超常現象板)や「Reddit」などの掲示板コミュニティを中心に広く共有され、コミュニティが形成されていきました。
のちに、クリーピーパスタはYouTubeやポッドキャストにも展開されるようになり、さらには書籍化、映画やドラマに映像化される機会も増え、インターネット文化に大きな影響を与えつづけています。
1-3 【重要】気をつけておきたいこと
いきなりネタバレのようで恐縮なのですが...クリーピーパスタはほとんどすべてがフィクションです。
中にはかなりリアルに描かれているものもありますが、くれぐれもフィクションと現実を混同しないように注意してください。
というのも、一部で現実とフィクションを混同した事件が発生しているからです。一例として、2014年には、アメリカで、クリーピーパスタのキャラクター「スレンダーマン」に影響を受けた少女たちが刺傷事件を起こしています。
現実と区別して鑑賞することが重要なポイントです。また、一部のクリーピーパスタは非常にグロテスクな描写を含むため、閲覧には注意が必要です。
中には「R18」等の指定がついているものもあります。取り扱いには十分注意してください。さて、はじめましょう。
2.「The Backrooms」がブーム?
2-1 「The Backrooms」とは?
2019年5月に掲示板「4chan」の「/x/」に「投稿された一枚の画像とストーリーから広まったのが「The Backrooms(ザ・バックルームズ)」です。
何かの拍子で、黄色い壁紙とカーペットが敷き詰められた、蛍光灯で照らされた異世界の部屋「Backroom」に飛ばされてしまい、閉じ込められてしまった......という投稿から、すべてがはじまりました。
これに触発され、ストーリーが次々と投稿されて追加されていき、「The Backrooms」の世界が拡張され、形作られていくことになります。
現実世界から次元のずれた異世界に落ち、無限につづくような迷路のような空間に迷い込んでしまうコンセプトが話題となり、ストーリーが拡大していったのです。
その後、様々な設定が追加されていきます。ネットの利点を活かして、多くの作者が参加する共同創作の形で物語が「ユニバース」へと進化した一例といってよいでしょう。
そして、2022年1月には、YouTubeのKane Pixelsに短編ホラー映画『The Backrooms (Found Footage)』がアップされました。
▼The Backrooms (Found Footage)(Kane Pixels)YouTube
2-2 A24が映画化を発表
2023年2月、映画制作スタジオ「A24」は、「The Backrooms」を映画化する計画を発表しました。
上で紹介した「The Backrooms (Found Footage)」に基づいて、若い映像作家が別次元の迷宮に迷い込むという設定が予想されています。
この映画化が興味深いのは、インターネットで大人気となったクリーピーパスタを大画面で体験できるということです。
スマートフォンの画面やPCの画面を飛び出し、現実と虚構の境界が曖昧になる不気味な世界観が表現されるのではないでしょうか。今から楽しみです。
このように「The Backrooms」は、現代のインターネット文化からで生まれた新たなホラーの一つの形であり、映画化によってさらに多くの人々に魅力が伝わり、拡大しつづけることでしょう。
3.「ブルーホエール・チャレンジ」「レッドルーム」は実在するのか?
3-1 「ブルーホエール・チャレンジ」とは?
「ブルーホエール・チャレンジ(Blue Whale Challenge:青い鯨)」とは、2016~2017年頃にロシアで発祥したとされる、SNSを通じて参加者に自殺を教唆する危険なオンラインでの「チャレンジ」です。
この「チャレンジ」は、主に若者をターゲットにしていて、参加者は「管理者」から50日間にわたって課される一連のタスクを遂行するよう指示されます。タスクは次第に過激化し、最終的には自殺を強要されるというのです。
このコミュニティや指示内容などをまとめて「ブルーホエール・チャレンジ」と呼ぶことが多いようです。
ロシアでは、同国最大のSNS「フコンタクテ(VK.com)」には、実際にコミュニティが存在したといわれています。
2016年には、フィリップ・ブデイキン(Philipp Budeikin)容疑者が逮捕されました。その後、世界各国で同様の案件が発生し、社会問題となっています。2017年には、インド政府がGoogleなどに「ブルーホエール・チャレンジ」へのリンクを削除するよう要請したと報じられています。
3-2 実際に「ブルーホエール・チャレンジ」は存在するのか?
上で述べたように、実際にコミュニティは存在し、逮捕者も出ていますが、2016年のロシアの自殺者数は前年より減少しているという報告もあり、「ブルーホエール・チャレンジ」が実際に猛威をふるったのか今ひとつはっきりしません。
メディアの調査結果を見ても、この「チャレンジ」の具体的な証拠が得られず、ある種の誇張や誤報である可能性が高いと結論づける報道もされています。どこまでが現実で、どこからが虚構なのか、その線引きが曖昧なままともいえます。
「ブルーホエール・チャレンジ」の実在が疑わしいとしても、インターネット上には他にも同様の「チャレンジ」が存在する可能性があり、注意が必要です。
家族がネット上のチャレンジプログラムに参加していないか、気をつけるようにしましょう。「ブルーホエール・チャレンジ」は、デジタルリテラシー教育の大切さを思い知らされてくれる一件だといえます。
3-3 「レッドルーム」とは?
「レッドルーム(Red Room)」とは、ダークウェブ(闇ウェブ、闇サイト)にある危険な違法行為を中継するWEBサイトのことです。「レッドルーム」では、赤いライトに照らされた部屋でリアルタイムに拷問や殺人が行われ、ライブストリーミングされているといいます。
そして、視聴者は、ビットコインなどの暗号通貨を使ってアクセスし、料金を支払うことで、違法行為をリクエストできるというのです。
2023年には、これを題材にカナダで『Red Rooms』として映画化されているそうです。
▼RED ROOMS | Official Trailer (French with English Subtitles)(YouTube)
「レッドルーム」が実在するか調査や捜査が行われましたが、具体的な証拠は見つかっていません。
ダークウェブを利用する際に必要な「Tor」でライブストリーミングサービスを利用するには回線速度が致命的に遅いという話もあり、技術的には難しいのではないか......という指摘もあります。
しかし、驚くべきことに、「レッドルーム」を模したコピーサイトや詐欺サイトが多数作られてしまっているのだそうです。このような違法なコンテンツやオンライン活動には、十分以上に警戒し、近づかないようにしてください。
3-4 他にも「赤い部屋」が多数
話はややこしくなりますが、他にも「レッドルーム」が多々存在します。
まず2000年代初頭に日本で開かれていたのが「赤い部屋」です。FLASHで物語が展開されます。インターネット利用に消すと死んでしまうポップアップ広告を巡るアドベンチャーゲームです。インターネットアーカイブで見ることができます。
1993年には、アメリカで映画『RED ROOM』が公開されていますが、こちらは本記事で話題にしている「レッドルーム」とは異なります。
また、マーベル・コミックスには、架空のソビエトによるスパイ訓練施設「レッドルーム」が登場します。もちろん、ここまでお伝えしてきたものとは別物です。
4.「スマイル・ドッグ(Smile Dog)」と検索してはいけない!?
4-1 「スマイル・ドッグ(Smile Dog)」はどんな犬?
「スマイル・ドッグ(Smile Dog)」は、笑うハスキー犬が映る画像「smile.jpg」を見た人に、不幸や精神の不安定さ、狂気が訪れるというものです。
この「笑うハスキー犬の画像」は、実はかなりの数が流布しています。どれも不気味な表情で背景は暗く、犬の目は異様に輝いていたり、ロールシャッハテスト的な画像や、何かの影に見えそうな模様が描かれていたりすることも多いようです。
※【閲覧注意】:「smile.jpg」で検索すると様々なスマイル・ドッグのバリエーションを見ることができます。気の弱い方、ホラー的な表現を好まない方、怖い話・画像が苦手な方は検索しないでください。
スマイル・ドッグの主な流れは、「smile.jpg」の画像を見た人は、夜な夜なその画像に悩まされ、悪夢を見るようになります。
最終的には、「この画像を他人に見せると呪いから解放される」というメッセージが見えるようになり、その指示に従うように促されます。そうして、画像が拡散されていくといいます。
1990年代、つまり、パソコン通信全盛の時代から広まっていたといわれています。クリーピーパスタが広まる前から人気が高い「ネット上の怪談」なのです。
4-2 クリーピーパスタで「復活」
クリーピーパスタが広まると、スマイル・ドッグ、つまり「smile.jpg」は新たな設定やストーリーを与えられることになり、さらに恐ろしい画像、動画が制作されて急速に広がっていきました。この拡散の流れは上で説明した「The Backrooms」の広まり方と似ています。
もちろん、スマイル・ドッグのストーリーはフィクションです。
視覚的なインパクトが大きいことから、拡散スピードが速かったのだと考えられます。
5.「ロバート人形」は実在する
5-1 イースト・マーテロー博物館に展示されている
「ロバート人形(Robert the Doll)」という人形はご存知でしょうか。
アメリカ・フロリダ州キーウェストにあるイースト・マーテロー博物館に展示されており、呪いの人形(Haunted doll)とされています。ちなみに、呪いの人形としては、日本でも「お菊人形」(北海道岩見沢市萬念寺)が有名です。
「ロバート人形」は、セーラー服を着て犬のぬいぐるみを抱えた男の子の姿をした人形です。
ロバート・ユージーン・オットー氏がもともと所有しており、1904年にドイツを訪問した祖父からのプレゼントで、ドイツのシュタイフ製でした。その後、持ち主が変わりましたが、1994年にイースト・マーテロー博物館に寄贈されました。
5-2 「ロバート人形」と怪奇現象
オットー氏は幼少期からこの人形が怪奇現象を引き起こしていると話していたそうです。具体的には、人形が夜中に動き回ったり、家具を倒したり、笑い声を発したりしたといいます。また、悪口をいわれると表情が変わったそうです。
そして、ロバート人形を見た人や写真を撮ろうとした人が、不運や事故に見舞われるという話も広まりました。そのため、イースト・マーテロー博物館では、毎年10月には特別展示を行いますが、人形に対して、尊敬の念を持って接し、写真を撮る際には、人形に許可を得る必要があるとしています。
以前、ロバート人形をヒントにしたと思われる映画が公開されたこともあって人気となり、今ではオフィシャルグッズも販売されています。
6.ゲーム機「ポリビアス(Polybius)」は存在したのか?
6-1 1981年にアメリカで行われたマインドコントロール実験?
「ポリビアス(Polybius)」は、1980年代初頭にアメリカのオレゴン州ポートランドのアーケードに登場したとされるアーケードゲームです。
1981年にSinneslöschen社によって作られたとされ、「ポリビアス」は中毒性が高く、これをプレイした人々は頭痛、悪夢、幻覚を見るなど深刻な心理的・身体的影響を受けたといわれています。
ゲーム筐体の元には黒服の男が来てデータ収集をしていたとされており、約1ヵ月後、跡形もなく消え去ったというのです。
そのため、「ポリビアス」は、政府による秘密の心理実験、またはサブリミナル効果を利用した洗脳プログラム、マインドコントロール実験が行われていた等々、様々な陰謀論と結びついて語られてきました。
6-2 「ポリビアス」は実在したのか?
「ポリビアス」の実在については、多くの疑問が投げかけられています。具体的な証拠やゲーム機の実物は発見されていません。
「ポリビアス」は創作されたストーリーであると考えられています。しかし、数多くのテレビ番組や映画、ビデオゲームといったポップカルチャーに影響を与えました。
2007年には、パソコン用のフリーゲームとして『ポリビアス』(Rogue Synapse)が公開されました。2013年にはAtari 2600用の『ポリビアス』(Lost Classics)が発表されています。これらはどちらもシューティングゲームでした。
さらに2017年には、PlayStation4用の『Polybius』(Llamasoft)が高評価を得ており、こちらは後にPlayStation VR用もリリースされています。実際の「ポリビアス」は発見されていませんが、このように影響を受けたゲームが実在していることになります。
7.生きた彫刻「SCP-173」の存在感がすごい
7-1 「SCP-173」とは?
「SCP-173」は、SCP財団(SCP Foundation, SCPF)という組織が管理するコンクリート製の生きた彫刻で、目にした人間が視線をそらすか、瞬きをした瞬間に高速で動いて首を折って殺害する殺人マシーンです。
実際には、日本の彫刻家・加藤泉氏の作品『無題2004』を題材とした二次創作が「SCP-173」のストーリーです。
当初はこの彫刻の画像を使用していましたが、ライセンスの関係に基づき、2022年2月にコミュニティの決定によって自発的に画像は削除されています。
「SCP」とは、「Special Containment Procedures」の略で「特別収容プロトコル」の意味です。SCP財団は自然法則に反した異常な物品や存在、現象等々を収容する架空の組織の名称であり、同時に、2008年に開設された共同創作コミュニティサイトの名でもあります。
7-2 「SCP-173」の影響力
完全にフィクションである「SCP-173」は、SCP財団が作られるきっかけとなった存在で、ビデオゲームをはじめとするフィクション作品や、YouTubeのクリエイターたちによって取り上げられるようになり、多くの人々に知られるようになりました。擬人化された作品や、モデルやぬいぐるみも存在しています。
SCP財団のサイトでは、他にも数多くのSCPオブジェクトが投稿されており、多様な設定とストーリーが複雑に絡み合って、独特のユニバースを形成しています。
その意味で「SCP-173」は、インターネット文化の中で生まれた新しい形の都市伝説とストーリーの象徴として、多くの人々に影響を与えつづけています。
まとめ
クリーピーパスタとは「インターネット上で広まる怖い話や画像、動画、都市伝説の総称」であり、デジタル時代の新しい「怖い話」の一形態として、特に若い世代を中心に人気を集めています。
従来の怪談や都市伝説と同様に、人々の好奇心や恐怖心を刺激する楽しさがあり、さらに共有するワクワク感、共同創作する喜びがあるのが独自の特徴といってよいでしょう。
それもあり、広大な世界を覗き見るような奥深さを感じさせてくれるのが魅力ではないでしょうか。
ただし、クリーピーパスタを楽しむ際は、あくまでもフィクションであることを忘れないでください。紹介しきれないほどのクリーピーパスタが存在していますが、中には現実と虚構の境目が曖昧で、つい、現実の話だと錯覚させられてしまうものも存在します。
クリーピーパスタには適切な判断力を持って接することが大切です。特に不安を感じやすい人や子どもたちは、このような話に過度に影響されないよう注意する必要があります。著作権の問題もあわせて気をつけましょう。