ソフトウェア開発の失敗は、最初の段階で防げることが少なくありません。その鍵となるアプローチが「フロントローディング」です。フロントローディングはさまざまな業界で使われる言葉ですが、近年ではソフトウェア開発でも重要性が高まっています。
本稿では、ソフトウェア開発におけるフロントローディングとは何か、基本から解説します。フロントローディングのメリットや注意点、成功のポイントまで紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- もくじ
1. フロントローディングとは
フロントローディングはソフトウェア開発に限らず、ビジネスで幅広く使われる言葉です。まずは、フロントローディングの一般的な意味から、ソフトウェア開発における定義まで、詳しく解説します。
1-1. フロントローディングの一般的な意味
フロントローディング(front-loading)は、英語で「前倒し」を意味します。つまりフロントローディングとは、後々に実施する予定だった作業やタスクに、より早い段階で取り組み始めるアプローチのことです。
ただし、「前の作業が順調に進んだから、次の作業を予定よりも早く開始しよう」という結果的な前倒しは、一般的な「フロントローディング」には含まれません。フロントローディングでは、早期段階で多くの人員や時間、費用といったリソースを戦略的に集中投入し、通常よりも早く着手するように計画します。
フロントローディングの考えにもとづいた手法も珍しくありません。たとえば製造業では、設計段階から後工程の製造や販売の工程を並行して進める「コンカレントエンジニアリング」という手法があります。本来は後に予定される作業を早い段階で始める点で、これもフロントローディングの一種と言えます。
このように、後々の作業やタスクをより前の段階にスライドするのがフロントローディングです。
1-2. ソフトウェア開発における定義
ソフトウェア開発におけるフロントローディングとは、本来は後に予定される開発工程の作業に、より早い段階で取り組み始めるアプローチです。戦略的に前倒しで取り組む点は、一般的なフロントローディングと変わりません。
多くの場合、下流工程で行う実装やテストの作業を、上流工程の企画や要件定義、設計 の段階で着手することを指します。つまり、下流工程で発生する作業を上流工程で先取りし、早めに検討・対応を進めておきます。
そうすることで、後々の手戻りや問題発生を防ぎ、開発全体の効率化と品質の向上を図ります。これが、ソフトウェア開発におけるフロントローディングです。
2. フロントローディングのメリット
フロントローディングは、ソフトウェア開発に多くのメリットをもたらします。ソフトウェア開発にフロントローディングを取り入れる主なメリットは、次の3つです。
2-1. 開発コスト削減
一般的に、問題の発覚が遅くなるほど手戻りは大きくなり、カバーするために開発コストも増大します。フロントローディングではそれを防ぐために、プロジェクトの初期段階で要件や設計を徹底的に検討するのが特徴です。
結果として、要件の見直しやプログラムの書き直しといった後工程での無駄な作業を抑制でき、開発コストの削減につながります。
2-2. 納期短縮
早期に防げたはずの問題を放置し、開発の終盤でその問題が発覚した場合、修正に多くの期間を確保しなければなりません。
しかしフロントローディングでは、上流工程の段階で潜在的な問題をあらかじめ発見し、対策を講じることができます。
その結果、開発の後半で発生する追加作業の期間が減り、全体として納期短縮につながります。
2-3. 品質やスケジュール上のリスク軽減
リリース後に品質問題が明るみに出たり、開発終盤の致命的な問題でスケジュールが破綻したりすることは、ソフトウェア開発における重大なリスクです。
フロントローディングを採用すれば、開発の初期段階でこうしたリスクに対処できます。たとえリスクを完全には回避できなくても、早期に把握できれば被害を最小限に抑えやすいでしょう。
3. フロントローディングの注意点
フロントローディングには多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。フロントローディングの注意点3つを知っておきましょう。
3-1. 初期段階での開発コストは増大する
フロントローディングでは、上流工程(企画や要件定義、設計)に多くの時間や人員を割くことになります。
そのため、プロジェクトの初期段階における開発コストは通常よりも増大することが普通です。
とはいえ、下流工程での追加作業を抑制するための有意義な投資であり、開発全体として見れば開発コストの抑制につながるでしょう。
3-2. 要件変更への柔軟性が低下しやすい
フロントローディングを採用すると、要件変更への柔軟性は低下しやすくなります。これは、開発初期に要件や設計を綿密に固める構造のためです。
内部のリスクには事前に対応できますが、顧客からの外的な変更要求には、対応が難しいケースも少なくありません。
3-3. 上流工程担当者の負担が増大しやすい
フロントローディングを採用すると、上流工程担当者の負担は増加しやすくなります。
プロジェクトの初期段階で後々のリスクを検討したり、設計の精度を高めたりするなど、追加作業が発生しやすいためです。
人員に余裕がないプロジェクトだと、1人あたりの作業量が多くなり、品質の確保やスケジュール管理にも影響を及ぼす恐れがあります。
4. フロントローディングを成功させるためのポイント
フロントローディングは、ただ取り入れるだけで効果が出るアプローチではありません。上流工程に重点を置く分、適切な準備や体制づくりが求められます。導入を成功させるには、事前の計画と運用体制の見直しが不可欠です。
ここでは、実践に向けて押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
4-1. 人員配置や組織体制を見直す
フロントローディングの成功には、要件定義や設計といった上流工程に強い開発メンバーの存在が欠かせません。フロントローディングを採用する場合、そのチームにおける上流工程担当者の業務量は増加しやすくなります。その負荷に耐えうるだけの人材を計画的に確保し、上流工程へ集中的に配置する必要があります。
しかし実際には、こうしたスキルを備えた人材が不足しているケースも少なくありません。そのため、外部のチームから経験豊富な上流工程担当者を確保する、社内で若手メンバーの育成を進めるなど、人材強化の取り組みも重要です。場合によっては、組織体制の見直しも必要でしょう。
上流工程に適切な人材を早期に関与させることで、技術的な判断やリスクの洗い出しがスムーズに進みます。
4-2. プロセスやドキュメントを整備する
従来とは異なるアプローチを採用するにあたって、プロセスやドキュメントも整備しておくべきです。フロントローディングに関わる作業が一部の上流工程担当者に限られると、業務が属人化し、安定した運用が難しくなります。
業務フローや設計手順、チェックリストなどを明文化し、誰でも参照できる形で共有しましょう。プロセスやドキュメントが確立されていれば、経験の浅い方でも一定の品質を保ちながら作業に参加しやすくなります。
一部の上流工程担当者への負担集中を避けるため、こうした仕組みづくりに取り組みましょう。
4-3. 上流工程のスキル向上を図る
フロントローディングを採用するうえでは、積極的に上流工程のスキル向上を図ることが大切です。
上流工程に多くの人員をアサインするためには、できる限り多くの適任者を確保しなければなりません。
一部の熟練者に負担が集中しないよう、チーム・組織として上流工程のスキルアップに取り組むべきです。
なお弊社では、上流工程の基本から実践まで学べるオンライン講座を提供しています。要件定義を中心に、上流工程で押さえておくべきポイントを学べます。上流工程のスキルを効率的に磨きたいチームや組織の方は、ぜひご活用ください。

まとめ
ソフトウェア開発におけるフロントローディングとは、本来は後に予定される開発工程の作業に、より早い段階で取り組み始めるアプローチです。上流工程に重点を置くことで後々の問題発生を抑制でき、開発コスト削減や納期短縮を図れます。
フロントローディングは、初期段階でのコスト増大や上流工程担当者の負担増といったリスクをともないます。戦略的に進めるべきアプローチであり、単に取り入れれば成功するというものではありません。ポイントを押さえた慎重な運用が求められます。
フロントローディングを採用する際には、今回の内容をぜひ参考にしてください。