ビジネスへのAI活用が広がる中、ソフトウェア開発でもAIを取り入れる試みが進んでいます。なかでも、AI時代の新たな開発戦略として注目されているのが「仕様駆動開発(SDD)」です。
本稿では、仕様駆動開発とは何か、基本からお伝えします。仕様駆動開発のメリットや必要な準備、進め方、ポイントまで解説するため、ぜひ参考にしてください。
1. 仕様駆動開発(SDD)とは
仕様駆動開発(SDD:Spec-Driven Development)とは、最初に詳細な仕様書を定義し、それに沿ってAIを用いて設計や実装、テストを進めていく開発手法です。最初に定義する仕様書が、最終的に完成させるソフトウェアの「レシピ」のような役割を担います。
「仕様書からソフトウェアを作る」と聞くと、従来の開発と何が違うのかと疑問に思う方もいるでしょう。まずは、従来型の開発との違いや、仕様駆動開発が注目されている理由について解説します。
従来型の開発との違い
従来の開発現場でも、本来は「仕様書を書いてから実装する」のが理想的な手順とされてきました。しかし実際には、納期やリソースの制約から「動くものを最優先に作り、後で仕様書を整える」といった逆の手順に陥りがちです。
その結果、仕様書が作成・更新されないまま放置され、「何が最新の仕様か分からない」というケースも珍しくありません。こうした「コード先行」の進め方は、属人化やバグの温床にもつながります。この課題を解消するのが、仕様駆動開発です。
仕様駆動開発では「仕様書を最優先に作り、それをAIの入力にして動くものを作る」という流れが基本です。AIは仕様に従ってソフトウェアを生成するため、仕様が更新されなければ正しい変更ができません。つまり、AIを活用して「仕様書=ソフトウェア」を実現するのが、従来型の開発との大きな違いです。
仕様駆動開発が注目されている理由
仕様駆動開発が注目される背景には、コンテンツの生成能力を持つ「生成AI」の登場と発展があります。「ChatGPT」のようなテキスト生成AIは、ユーザーの指示に従ってコードを生成できるレベルにまで進化しました。
従来のAIでは、人間の言葉で書かれた仕様書からコードを生成することは困難でした。しかし、AIのコード生成能力が飛躍的に向上した現在、仕様書さえ詳細に記述すれば、ソフトウェア開発に使えるコードが出力可能となっています。
さらに、昨今では生成AIをより発展させた「AIエージェント」も登場しました。AIエージェントは、複雑なタスクを自律的に遂行でき、仕様の解釈からコード生成、テスト、修正まで、一連の作業を連続してこなすことも可能になりつつあります。
こうしたAI技術の進化が、仕様駆動開発の実現性を飛躍的に高めているのです。
2. 仕様駆動開発を取り入れるメリット
仕様駆動開発を取り入れるメリットは、主に次の3つです。
メリット①AI活用により開発スピードを向上できる
最大のメリットは、AIツールを活用して開発スピードを大幅に向上できる点です。
高性能なAIツールに仕様書を読み込ませれば、少ない手順でソフトウェアのコードを生成してくれます。開発者の役割は、AIへの適切な指示出しと生成されたコードの確認・調整・統合が中心となり、手作業でゼロからコードを書く必要がありません。
手作業では時間がかかりやすいコーディング作業をAIでスピードアップすることで、高速なソフトウェア開発が可能となるのです。
メリット②仕様書とコードの乖離を防げる
仕様駆動開発を取り入れることで、仕様書とコードの乖離(ズレ)を防げます。
仕様駆動開発において仕様書は、ソフトウェアの「レシピ」です。AIは、レシピに沿って料理(コード)を忠実に作るため、仕様書が変わればコードも変わります。言い換えると、完成品の仕上がりを変えたい場合は、レシピ自体も更新しなければなりません。
この性質によって、仕様書とコードが常に一致する状態を保てます。「仕様書とコードのどちらが正しいか分からない」といった後からの混乱も防げるでしょう。
メリット③手戻りを抑制できる
仕様駆動開発を取り入れることは、手戻りの抑制につながります。
AIに正確なコードを生成させるためには、論理的に整合性の取れた詳細な仕様書が欠かせません。この「仕様を詳細に詰める」プロセスを通して、設計の矛盾や考慮漏れに早い段階で気づけます。
また、後から仕様変更が発生した場合でも、AIによって実装作業そのものが効率化されているため、修正にかかるコストを最小限に抑えられます。
3. 仕様駆動開発の導入にあたって必要な準備
仕様駆動開発の導入にあたっては、事前に整えておくべき体制や環境があります。仕様駆動開発の導入に必要な準備作業は、主に次の3つです。
準備①AIツールの選定・導入
まずは、仕様書からコード生成を支援するAIツールを選定・導入しましょう。現在では、仕様駆動開発に特化したAIツールが登場しており、これらが開発の要となります。
代表的な仕様駆動開発ツールを下表にまとめました。これらは一例であり、今後新たなツールが登場することも考えられます。
| ツール名 | 概要 |
|---|---|
| Spec Kit | GitHub公式の仕様駆動開発ツールキット。GitHub CopilotなどのAIツールと連携して開発を進める。 |
| Kiro | AWSが提供するエージェント型の仕様駆動開発ツール。数百通りのテストを自動生成する「プロパティベーステスト機能」を持つ。 |
| cc-sdd | 日本製でオープンソースの仕様駆動開発ツール。既存のコードベースを自動分析する機能がある。 |
導入前にテストを行いつつ、チームの開発環境に適したツールを選定・導入しましょう。
準備②開発ドキュメントの整備
AIの出力精度を高めるために、開発ドキュメントの形式を整備しましょう。仕様書はAIへの指示書(プロンプト)そのものとなるため、AIが理解しやすい形式でなければなりません。
WordやExcelではなく、Markdown記法のような構造化されたテキスト形式が理想です。「機能要件」や「データ構造」などの項目をテンプレート化し、誰が書いてもAIが正確に解釈できる環境を整えましょう。
準備③開発フローの見直しとチーム教育
導入する仕様駆動開発ツールによって、具体的な操作手順は異なるでしょう。しかし、共通して「開発フローの抜本的な見直し」が求められます。
「とりあえずコードを書く」という従来の慣習を捨て、「仕様書を更新しなければ実装は変更しない」という鉄則をチームに浸透させる教育が不可欠です。
また、「仕様変更時にどのタイミングでコードを再生成するか」「生成されたコードを誰がどうレビューするか」など、ツールに合わせた新しい運用ルールを明確に定めておくと良いでしょう。
4. 仕様駆動開発の基本ステップ
ここからは、実際に仕様駆動開発を進める際の大まかな流れを4ステップでご紹介します。ただし、採用する仕様駆動開発ツールによって細かい手順は変わる場合があります。
- ステップ①仕様書の作成
- ステップ②タスクの洗い出し・計画
- ステップ③AIツールによるコード生成
- ステップ④コードのレビューと改善
ステップ①仕様書の作成
最初に、実現したい機能の仕様書を作成します。機能要件や非機能要件を明文化し、AIが論理的に解釈できる形式にまとめましょう。あらかじめ整備したテンプレートを用いて情報を整理することで、記載の抜け漏れを防ぎ、AIの解釈精度を高められます。
曖昧な表現はAIの誤解や誤実装を招く原因です。できる限り具体的かつ明確な言葉を選び、誰が読んでも意図が伝わる構造的な記述を意識しましょう。
ステップ②タスクの洗い出し・計画
次に、仕様書を実現するための技術的な方針を決め、具体的な作業タスクへ分解します。この作業をメインで行うのは、仕様駆動開発ツールです。開発者は、タスクの計画に必要な技術情報の提供や、提示されたタスクの確認や調整、追加指示を行います。
たとえばログイン機能を開発する場合、「ログイン画面の実装」「入力データの検証」「認証処理」といったタスクが提示されるでしょう。実装の方針や手順に問題がないか検証し、最適なタスク計画を確定させます。
注意点として、データベースのサーバー構築やAPIキーの取得といった環境準備は、AIでは完結できないケースが多いため、あらかじめ人間が行っておく必要があります。
ステップ③AIツールによるコード生成
続いて、確定した計画に従って、AIツールにコードを生成させます。AIは、リストアップされたタスクを順次実行し、必要なファイル作成やコーディングを自動で行います。
開発者がゼロからコードを書く必要はありません。AIがプログラムを構築していくプロセスを確認しつつ、問題が発生した場合は対応しましょう。
ステップ④コードのレビューと改善
AIがコードを生成した後は、開発者がレビューと改善を行いましょう。AIも完璧ではないため、仕様との食い違いなどが混入しているケースも考えられます。そのため、コードの品質は開発者が責任を持って検証し、問題があれば修正しましょう。
ただし、仕様書自体に修正が必要な場合は、必ず仕様書のベースにもフィードバックしてください。仕様書を更新せずにコードだけを直すと、次回生成時に修正箇所が元に戻ってしまいます。
5. 仕様駆動開発を取り入れる際のポイント
最後に、仕様駆動開発を成功させるためのポイント2つを押さえておきましょう。
ポイント①品質責任は開発者が持つ
AIがコードを書くとはいえ、最終的な品質責任は人間が持ちましょう。「AIが書いたから正しいはず」という思い込みは危険です。
生成されたコードに脆弱性(セキュリティ上の弱点)がないか、意図しない挙動が含まれていないか、など開発者自身の目で厳しくチェックしましょう。あくまでAIは支援ツールであり、最終的な責任者は人間であることを忘れてはいけません。
ポイント②仕様は具体的に記載する
仕様書が抽象的すぎると、AIが意図と異なるコードを出力しやすくなります。条件や前提はできる限り具体的に記載し、曖昧な表現は避けましょう。
特に、仕様で想定されている正常系だけでなく、想定内/想定外のエラーが発生するケース(準正常系/異常系)の挙動についても明記しましょう。ここが曖昧だと、エラー処理の不備が混入しやすくなります。
たとえば「認証失敗時はエラーにする」ではなく、「認証失敗時はステータスコード401を返す」のように、明確に指示しましょう。期待する動作をテストケースレベルで詳細に記すことが理想です。
6. まとめ
仕様駆動開発とは、最初に詳細な仕様書を定義し、それに沿ってAIを用いて設計や実装、テストを進めていく開発手法です。AIを活用することで開発スピードの向上につながり、仕様書とコードの乖離や手戻りの増大を防げます。
仕様駆動開発を導入するうえでは、ツールの選定だけでなく、開発ドキュメントの整備や開発フローの見直しも必要です。本稿の内容を参考に、仕様駆動開発の導入に取り組んでみてはいかがでしょうか。


