Webサイトやアプリの評価を決めるのは、機能やコンテンツの充実度だけではありません。「ユーザーにとって使い勝手が良いか」「ユーザーが満足に利用できるか」といった観点も重要です。
こうした観点でソフトウェアを検証するのが「ユーザビリティテスト」です。
今回は、ユーザビリティテストとは何か、種類や進め方、成功のポイントについて解説します。
- もくじ
1.ユーザビリティテストとは?
ユーザビリティテストとは、ソフトウェアの「ユーザビリティ(使用性)」に着目するテスト手法です。
「ユーザビリティ」とは、「ユーザーにとって使い勝手が良く、目的をスムーズに達成できる性質」を指します。
機能やコンテンツが充実していても、高品質なソフトウェアとは言い切れません。品質を最終的に評価するのはユーザーです。「表示が見づらい」「ボタンが押しづらい」「メッセージが分かりづらい」といった問題があれば、ユーザーの評価は低くなるでしょう。
そこで、ユーザーにWebサイトやアプリを実際に利用してもらい、このような問題がないか検証するのがユーザビリティテストです。行動観察やヒアリングにより、課題発見やユーザー心理の分析を行います。
一般的な実施タイミングはベータ版のソフトウェア完成後、ある程度ソフトウェアが形になったタイミングです。
1-1 ユーザビリティを構成する5つの要素
ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン博士は、次の5つがユーザビリティを構成する要素であるとしています。
1.学習しやすさ
システムは、ユーザーがそれを使って作業をすぐ始められるよう、簡単に学習できるようにしなければならない。
2.効率性
システムは、一度ユーザーがそれについて学習すれば、後は高い生産性を上げられるよう、効率的な使用を可能にすべきである。
3.記憶しやすさ
ユーザーがしばらくつかわなくても、また使うときにすぐ使えるよう覚えやすくしなければならない。
4.エラー発生率
システムはエラー発生率を低くし、ユーザーがシステム試用中にエラーを起こしにくく、もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければならない。また、致命的なエラーが起こってはいけない。
5.主観的満足度
システムは、ユーザーが個人的に満足できるよう、また好きになるよう、楽しく利用できるようにしなければならない。
出典:「ユーザビリティエンジニアリング原論」ヤコブ・ニールセン著より
ユーザーにとって使いやすいWebサイトやアプリにするためには、こういった要素を満たしているかという観点で検証することが重要です。
なお、非機能要件については以下の記事で解説しています。
1-2 ユーザビリティテストとユーザーテストの違い
ユーザビリティテストに似た言葉に「ユーザーテスト」があります。「ソフトウェアを開発者以外の人に利用してもらう」という点は同様ですが、観点が違います。
ユーザビリティテストでは見やすさや操作しやすさ、分かりやすさなど、使い勝手の良さに焦点を当てて実施します。
一方、ユーザーテストとは、ソフトウェアや機能がユーザーに受け入れられるかを検証するテスト手法です。
ユーザーテストでは、「プロダクトが想定ユーザーのニーズに合致しているか」という観点で実施します。つまり、マーケティング視点も含まれるのが特徴です。
両者の違いを押さえておきましょう。
2.ユーザビリティテストを実施する目的
ユーザビリティテストには重要な目的があり、Webサイトやアプリの開発において欠かせません。ここでは、ユーザビリティテストを実施する目的を紹介します。
2-1 ユーザー体験の向上
ユーザビリティテストには、ユーザー体験を向上させる目的があります。
機能やコンテンツが充実していても、ユーザーが快適に使えなければ高品質なソフトウェアとは言えません。ユーザーの快適さを保証するためには、ユーザー視点でのテストが不可欠です。
ユーザビリティテストを実施すれば、視認性や操作性といったユーザー視点での課題を発見できます。リリース前に見つかった課題に対処することで、よりユーザーにとって使いやすいソフトウェアを実現できるでしょう。
開発者は仕様の実現に注力するため、ユーザー視点を持ちにくいものです。また、開発時に何度も自分のWebサイトやアプリを見ているため、課題を見つけにくい面もあります。そのため、ユーザビリティテストで開発者が気づかない課題を検出することが大切です。
2-2 ユーザビリティの可視化
ユーザビリティテストには、ユーザビリティを可視化する目的もあります。
ユーザビリティは定量的な評価が難しく、品質改善の要否判定が困難です。そこで、ユーザビリティの現在地を把握し、品質改善の方針を立てるうえでユーザビリティテストが役立ちます。
ユーザビリティテストでは、複数のユーザーにソフトウェアを利用してもらい、タスクの成功率や平均完了時間といった具体的な数値データを取得できます。
これにより、ユーザビリティを定量的に評価することもでき、品質改善の方向性が明確となるでしょう。
3.ユーザビリティテストの種類
ユーザビリティテストには、大まかに「定量型」と「定性型」の2種類があります。それぞれの概要を見ていきましょう。
3-1 定量型
定量型のユーザビリティテストは、具体的な数値データでユーザビリティを評価するものです。
決まったシナリオに沿って複数ユーザーにソフトウェアを利用してもらい、その結果を記録・集計します。そして、タスクの成功率や平均完了時間、エラー発生率など、さまざまな項目に分けて定量的な評価を行います。
客観的にユーザビリティを評価できるため、先入観にとらわれず課題を検出できるのが強みです。一方で、正確なデータを得るためにはそれなりのテスターが必要となり、コストや手間がかかりやすい難点もあります。
3-2 定性型
定性型のユーザビリティテストは、数値化が難しい部分のユーザビリティを評価するものです。
「分かりにくい」「退屈」「印象に残らない」など、ユーザーの主観的・心情的な課題を主に評価します。アンケートやインタビューにより、ユーザーの声を収集する方法が一般的です。
数値データでは気づけない、真のユーザー心理を理解できる強みがあります。一方で、個々のユーザーの主観的な評価に依存するため、正確に評価しづらいのが難点です。
4.ユーザビリティテストの大まかなやり方
ユーザビリティテストのやり方を見ていきましょう。ユーザビリティテストは、大まかに次の4ステップで進めていきます。
- テスト計画
- テスト準備
- テスト実施
- テスト結果の整理・分析
ステップ1. テスト計画
最初に、ユーザビリティテストの計画を立てましょう。
テストの実施方法や観点、評価項目、対象ユーザーのターゲット層や集め方などの基本事項を明確にします。
これらに沿って、ユーザビリティテストの実施日程を決めます。特殊な施設や機材を使用する場合は、使用可能かどうかの事前確認やスケジュールの調整が必要です。
ステップ2. テスト準備
次に、ユーザビリティテストに必要な準備を済ませましょう。
ユーザーへの依頼や内容説明、テストに必要な実機端末やアカウントの用意などを行います。また、ユーザーが操作する際の具体的なシナリオ、アンケートやインタビューの項目も決めておくこと必要があります。
ユーザビリティテストの準備が不十分だと、正しくテストを実施できないばかりか、ユーザーにも迷惑をかけてしまいます。不足事項がないか確実にチェックしましょう。
ステップ3. テスト実施
続いて、ユーザビリティテストを実施しましょう。
あらかじめユーザーに説明したシナリオに沿って、ソフトウェアを操作してもらいます。
なお、ユーザビリティテストの実施方法には「対面型」と「非対面型」の2種類があります。
対面型
対面型はモデレーター(進行役)がユーザーに付き添い、指示や目視確認、ヒアリングを行うものです。
ユーザーと対話しながらスムーズに進行でき、直接フィードバックを収集できるのがメリットです。一方で、モデレーターの存在によってテスターの行動が制約されやすい、実施ハードルが高いといったデメリットもあります。
非対面型
非対面型はテスターに付き添わず、操作の録画や実施後のアンケートなどでテスト結果を取得するものです。
モデレーターがいないため自然な行動が期待できる点や、実施ハードルが低いのがメリットです。一方で、ユーザーから直接フィードバックを受けられず、スムーズに進めづらいデメリットもあります。
ステップ4. テスト結果の整理・分析
最後に、テスト結果を整理・分析しましょう。
アンケートやインタビュー結果の集計、録画した操作のチェックなどを行い、ユーザビリティの元になるデータを整理します。定量型では各評価項目の算出、定性型ではユーザーの声の分類やパターン抽出を行います。
そして、整理したデータを踏まえてユーザビリティ上の課題や改善点を分析します。分析結果はレポートにまとめ、関係者に共有しましょう。
5.ユーザビリティテストを成功させるためのポイント
ユーザビリティテストには多くの手間やコストがかかるため、確実に成功させたいところです。
ユーザビリティテストを成功させるためのポイント2つを押さえておきましょう。
5-1 ターゲット層に近いテスターを選定する
ユーザビリティテストでは、できる限りソフトウェアのターゲット層に近いテスターを選定しましょう。ターゲット層によってユーザー心理や行動パターンは変わってきます。実際にソフトウェアを利用するターゲット層に依頼したほうが、リアルな評価を得やすいためです。ただし、あまり特定の年代や性別に偏らせ過ぎるとフィードバックの幅が狭まるため、ある程度の幅はあっても良いでしょう。
5-2 テスターは十分な人数を確保する
ユーザビリティテストのテスターは、十分な人数を確保しましょう。人数が少なすぎるとフィードバックの幅が狭まり、ユーザビリティ上の課題や改善点を十分に検出できません。
ただし、人数を増やせば増やすほど手間やコストも増大するため、バランスが難しいところです。ヤコブ・ニールセン博士は、「5人のテスターがいれば約85%の問題検出が見込まれる」としています。人数を決める際の判断材料にすると良いでしょう。
まとめ
ユーザビリティテストとは、ソフトウェアの「ユーザビリティ(使用性)」の評価に着目するテスト手法です。
ユーザビリティテストを実施することで、開発者では気づけないソフトウェアの課題が明確となります。また、ユーザビリティを可視化することで、品質改善の方針を立てやすくなるでしょう。
ただし、ユーザビリティテストには綿密な準備が必要となり、手間やコストがかかりやすいのが難点です。ユーザビリティテストを成功させるためには、正しいやり方を把握し、適切な流れに沿って進めていく必要があります。
ユーザビリティテストを実施する際は、今回の内容をぜひ参考にしてください。ユーザビリティテストを効果的に取り入れ、ユーザーにとって価値のある、使いやすいWebサイト・アプリを実現しましょう。