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第8回隣のQAに聞く

「QAチームがプロダクトや会社の状況を明示し、『何を目指すか』を発信することで品質が高まっていく」株式会社ヤプリ 西浜 隆 氏

最終更新日時:2023.05.10 (公開日:2022.05.11)
「QAチームがプロダクトや会社の状況を明示し、『何を目指すか』を発信することで品質が高まっていく」株式会社ヤプリ 西浜 隆 氏

様々な現場でQA業務に携わっている方々の「声」をお届けする『隣のQAに聞く!』。社会のデジタル化が急速に進み、デジタルトランスフォーメーション(DX)が課題となる今。その流れからノーコードサービスが注目を集めています。同時にアプリやソフトウエアの品質への関心も高まりを見せており、QA・品質向上の重要性は増すばかりです。そんな中、他のチームでは、どのようにQA業務を実施しているか、気になっているエンジニアの方も多いのではないでしょうか? 本記事では、QAに取り組む上でのポイントなどを伺い、皆さまにお伝えします。今回は株式会社ヤプリの西浜 隆さんに同社のQA活動についてお話いただきました。

今回インタビューを受けてくださった方

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西浜 隆

株式会社ヤプリ プロダクト開発本部 QAリードエンジニア

大手電機メーカーのカスタマーサポートとしてキャリアをスタートし、大手ポータルサイト運営企業のQAチームに転職、様々なサービスの立ち上げに関わる。その後、ベンチャーASPサービスでカスタマーサポート、サーバ運用、顧客への導入サポート、製品のテストなど幅広く対応し、テスト専業会社に移って実績をあげるなどした後、株式会社ヤプリに参画。アプリプラットフォーム「Yappli」のQAチームを率いている。

もくじ
  1. 使う人が喜んでくれる製品になるようQA活動をしていきたい
  2. 開発者と一緒になり、要件段階からQA活動を進めている
  3. 「会社全員で品質を作ること」が重要
  4. フランクにエンジニアに話しかけていき、一緒に課題を解決する
  5. 製品のことを一番よく知っているのはQAという存在になりたい

使う人が喜んでくれる製品になるようQA活動をしていきたい

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――はじめに、QA業務に携わるようになったきっかけを教えてください。

元々カスタマーサポートやヘルプデスク業務をしていました。もっと製品そのものを良くする仕事をしたいと思っていたところ、大手ポータルサイト運営企業がQAを募集していたので参画して取り組んだのが第一歩です。

その後、SaaS提供会社やソフトウエアテスト会社、医療系IT企業でQAに対する想いやプロダクトの品質をどう捉えるのかといったことを身につけ、指標を作るなどしました。

Yappliに入りQAを担うことになったのは、実は面識なかったのですが代表の庵原と私の経歴が重なる時期があり、面接時にQAチームの話題で盛り上がったことや、Yappliの製品が画期的だと感じたからです。使う人が喜んでくれる製品になるようQA活動をしていきたいと思っています。

――アプリプラットフォーム「Yappli」はノーコードの製品でテストすべきことがかなり多いのではないかと思いますが、大変ではないでしょうか?

Yappliには40種類を超える機能があり、ノーコードで自由に組み合わせてスマートフォンアプリを非エンジニアでも作ることができるプラットフォームです。そのため、QAが想定していなかった使い方をお客様がすることで不具合が発生してしまうといった課題があると思っています。

Yappliのシステムは自由な発想で作られていて、何でもできるようになっているので逆にQAとしては大変になっているかもしれませんね。サービスとしては、今までなかったタイプで私もあまり関わってこなかった部分なので、取り組みがいがあります。お客様の声を直接いただく機会はあまりありませんが、作られたアプリを見て「こういうふうに使われているんだ」とか「フルスクラッチで作ったアプリと同等のことがYappliでできるのはすごいな」と思っています。

開発者と一緒になり、要件段階からQA活動を進めている

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――御社のQA業務の位置づけ、ミッションをどのように設定されているか教えてください。

基本は製品の品質を上げることです。日本を代表するような大手企業のお客様もいらっしゃいますので、お客様のところで不具合が起きないようにすることが大事だと考えています。同時にYappliの利用者目線で製品・サービスが本当に使いやすいものになっているかを確認することも大事です。

現在、当社のQAチームは社員が私を含めて8名で業務委託として来ていただいている方を加えて12~13名で運営しています。

――業務上、何か工夫されていることはありますか?

私の感覚では、他社のQAと比べると多種多様な開発が並行していることです。QAだけではありませんが、インシデント(事故)が発生したときの対応は、きちんとしている印象があります。

それもあり、私はYappliに入社して、それまであったQAをより進化させたいと考えました。その後、取り組みを進めて製品開発の初期から一緒にできるようにしてきました。最近ではプロジェクトのキックオフからQAが入り、要件定義のところから一緒に製品を作っていく形になっています。サービスの中の新しい機能を、開発やデザイナーと一緒になって「どういうUIで」といった企画段階から進めていくとき、QAとしてやりがいを感じますね。

――御社のようなノーコードサービスは自由度が高いぶん、品質保証が難しい印象を持ちますが、QAの特徴などはありますか?

基本は他と変わりはないと思います。ただ難しいのが、管理画面で設定したことがアプリで動くので、管理画面とアプリとの動き・連携をきちんと担保することです。アプリ側はAndroid、iOSとそれぞれのバージョンが結構広く、組み合わせが膨大なので全て網羅するのが大変ですね。多数のスマホ実機を並べて検証しなければならないからです。そこで思わぬ不具合が出ることもあります。

――それも踏まえて、今後、どのような問題を改善したいとお考えでしょうか?

Yappliにはいろいろな機能があります。これだけお客様がいらっしゃるとYappliのすべての機能がお客様にとって重要な機能のため、全てを担保しないといけないといった課題があります。

毎週、細かい修正をリリースしていますが、それに対して毎回リグレッションテスト(回帰テスト)を手動で、4人日かけてやっています。それでもカバーしきれないことがあるので、今後、テスト自動化などでカバーしていきたいですね。

ただ、今ある自動化ソリューションではWEBで設定したものがアプリでどう動作するかを連携して見ることができないようで、Yappliの管理画面とアプリの連携をテストするときは手動になっています。ここが難しいところです。

「会社全員で品質を作ること」が重要

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――様々な会社でQAを経験されていますが、QA業務を進める上で大事なポイントはどこにあるとお考えでしょうか?

「QAが品質保証をしなかったから事故になった」「QAはテストだけやってればいい」といったことを言われることがありましたが、これは違うと思っています。私がYappliにQAとして参画したときに、最初の集会で「品質は、会社全員で作るものですよ」と話をしました。みんなで品質のことを考えることが重要です。

「会社全員で品質を作ること」を実践するためには、何かしらの指標が必要だと考え、いろいろな指標を作ってきました。品質の指標は難しい面があります。一般的な「バグ密度」では、あまりピンとこないだろうと感じていました。「会社や製品の状況がどこにあり、今後、何を目指すのか」を、QAとして発信するのが、会社全員で作るために実施すべきQA活動だと考えています。

指標は何回も作り変えました。最初は、社内で見つけた不具合と、顧客から指摘のあった不具合の比率を指標にしました。「お客様に言われる前に見つけましょう」ということで、不具合があっても自分たちで見つけて改善することが重要だと皆に話していました。その次に営業時間に対してインシデントが発生していた時間の割合を指標にして全社目標に取り入れていただきました。

今、新しい指標を作っています。インシデントの中で直近のリリースのものがどれだけあったのかが重要だと感じていました。潜在していた不具合が長い時間をかけて顕在化してインシデントとなることもありますが、直近リリースした新しい機能や修正が原因となってインシデントが起きることをQAとして無くしたいと考え、指標化しているところです。

――QA業務をはじめたときに苦労されたことやどのように情報収集されているか教えてください。

以前在籍した大手ポータルサイト運営企業には細かいガイドラインがあり、そこに抵触しているかどうかを見るのがチェックポイントでした。それが想像以上に細かかったことが印象に残っています。「QAはこんな細かいところもチェックする仕事なんだな」と思いましたね。QAの知見は基本、独学という感じです。いろいろセミナーに参加したり、JaSSTを見たりとかして新しい情報を収集しています。

――QAチームとして何かメンバーに対して学びをサポートしていますか?

プロダクトの特徴もあると思いますが、メンバーが入ったときにキャッチアップするのが大変だというのが、今わかっている課題です。それもあり、先ほど話した指標もメンバーと一緒になって、どういう形で何を改善したいのか話し合い、みんなで一緒に学び、考える形で進めています。

その延長線上で、今、新しいテストケースを作って貯めていくのではなく、テスト観点ベースで、QA視点からヤプリの機能を明確にする活動をはじめました。賛同してくれるメンバーと共にどんな観点でフォーマットを使ったらいいのか、どういう切り口でまとめていけばいいのかを考えています。

細かく何百とテストケースを作ると、結局それをメンテナンスするのが大変になってしまいます。何か機能が加わってメンテナンスすると「これどうだっけ?」といった感じになることが多いのです。そこで、テスターに依頼するような詳細なテストケースをストックしていくのではなく、テストケースを作成するためのベースを構築するイメージで、「この項目はこういう動きになる」というテスト観点を作り、これを皆に共有しようとしています。

フランクにエンジニアに話しかけていき、一緒に課題を解決する

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――QA業務にはどんなタイプの人が向いていると思われますか?

私の視点で言うとコミュニケーション力が重要だと思っています。フランクにエンジニアに話しかけていき、一緒に課題を解決することが大切だと考えているからです。それと資質としては、ニュアンスが難しいのですが、何かに気づける人、引っかかりを持つことができる人が向いていると思います。

例えば、「間違い探し」問題のようなものが好きで、勉強するという感じではなく、細かいことに着目できるのがポイントなのかなと思います。

――QA業務に取り組む前に「こんなことをしておくと役立つ」ことをお教えください。

技法は確かに重要ですが、あとから学ぶことができます。まず、何かいろんなものを見ている中で「これって何?」「どうしてこういう動きなのか?」と考え、どういう意図でUIや機能が作られているのかを見直し、自分は何がベストかを考えられる視点を持てるようになっておくと良いと思います。

製品のことを一番よく知っているのはQAという存在になりたい

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――今後、業務を通じて達成したいことはありますか?

今、試行錯誤をしていますが、製品のことを一番よく知っているのはQAという存在にしていきたいですね。製品・サービスの中には様々な機能があるので、機能ごとにチームを分割する方法もあると思いますが、そうではなく、QA全員が製品の全てをよく知っていて、何を聞かれても答えられる組織にしていきたいと考えています。

――最後に、QA業務にチャレンジしたい方に向けてメッセージをお願いいたします。

QAにはいろいろなところから、エンジニアでなくてもチャレンジできます。エンジニアでなくても製品を良くする方向に関わることができるのは、かなり面白いことです。QAをやっていると様々な経歴を持っている方との出会いがあります。1つの世界からだけではなく、多種多様なバックグラウンドを持った人たちといろいろ意見を交わせられるのがQAの醍醐味です。興味を持った方は、ぜひチャレンジしてみてください。

執筆者:神田 富士晴

ライター

株式会社アスキー、株式会社光栄、株式会社ビレッジセンター等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集、ソフトウエア制作を経験。その後、企業公式サイト運営やコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター・マンガ原作者として記事の企画・取材・執筆に取り組んでいる。