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「シンギュラリティ(Singularity)」は2045年に訪れる? AIが人類の知能を超えるときが来るのか
AI関連 2024.01.18
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「シンギュラリティ(Singularity)」は2045年に訪れる? AIが人類の知能を超えるときが来るのか

執筆: 大木 晴一郎

ライター

「シンギュラリティ (technological singularity または singularity)」とは、テクノロジーが急速に進化することで、人間の未来が変容することを指す言葉です。

今、熱い注目を集めている人工知能(AI)のシンギュラリティによって、アメリカの学者、レイ・カーツワイル氏はAIが人間の知能を大幅に凌駕する時点がシンギュラリティだと指摘しています。
シンギュラリティについては「近い将来に到達する」とする考え方の他に、「到達しない」とする考え方、そして「いずれ到達するが、かなり先」と考える立場もあります。

また、シンギュラリティと並んで注目を集める「第四次産業革命」を含めて、AIの進化を巡るポイントをまとめました。

もくじ
  1. 「シンギュラリティ」とは何か?
  2. シンギュラリティが起こる可能性はあるのか?
  3. 人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の結果
  4. 「第四次産業革命(4IR)」とは?
  5. まとめ

1.「シンギュラリティ」とは何か?

シンギュラリティとは

シンギュラリティ(Technological Singularity または Singularity)とは、人工知能が人間の知能を超える時点と、その先の未来が変わっていくことを示す言葉です。アメリカの学者・発明家・思想家のレイ・カーツワイル氏が自著『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(日本語版:NHK出版 2007年)で、AIの指数関数的な進化が特異点(シンギュラリティ)をもたらすと述べました(アメリカでの発表は2005年)。そして、彼はシンギュラリティは「2045年に到来する」と予想しています。

余談となりますが、レイ・カーツワイル氏は、著名なミュージシャンであるスティーヴィー・ワンダー氏とともに「Kurzweil」ブランドのシンセサイザーを開発したことでも知られています。

シンギュラリティが起きたらどうなる?

レイ・カーツワイル氏は、シンギュラリティに到達すると、人間の生物的な身体と脳が抱えている限界を超えることが可能になり、運命を超えた力を手にすると述べています。

ただ彼が言うように、シンギュラリティによって人間が生物学的な限界を超えて革命的な何かが起きるのか、はっきりしたことは分かってはいない状況です。

なぜなら、人間を超えた知性が現れた「先」のことだけに現時点では全て仮説の範囲だからです。

宇宙物理学者のスティーブ・ホーキング氏は、2015年に「シンギュラリティに到達してしまうと人類の文明を終わらせる可能性がある」と表明し、懸念を示しました。

シンギュラリティのポイント

シンギュラリティに到達することとは、言い換えると哲学者のジョン・サール氏が提案した「強いAI」である汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)が完成することとほぼ同じです。

自律的に動作する「強いAI」が完成すると、再帰的にバージョンアップが繰り返されて人間の想像力が及ばないほど優秀な「知性」が誕生する可能性があります。

その意味では世界的な投資の流れを含む「AGI開発競争のゆくえ」と量子コンピュータなど「AGI関連技術の進歩と同行」が今後のシンギュラリティの動きを見るポイントといえそうです。

2.シンギュラリティが起こる可能性はあるのか?

AIがシンギュラリティに到達することはあり得るのか、到達するとするなら"いつ"になるのか、その観点からすると"来る"と考える「肯定派」、"来ない"と考える「否定派」、到達するがかなり先になると考える人々がいます。

ややこしいのは、到達を肯定していても人類にとって良い結果をもたらすと考えていない人もいることです。やや論点が見えにくい状況になっているともいえます。これは仮説段階のため、当然のことといえるのかもしれません。

「2045年までにシンギュラリティに到達」派

ここでは、レイ・カーツワイル氏の見解に基づいて、2045年までにシンギュラリティに到達するという考え方をするグループを肯定派としてみます。

肯定派の考え方は、技術の進歩が指数関数的に続き、AIが人間の知能を超える時点が近い将来に来るという予測が基本です。レイ・カーツワイル氏は「収穫加速の法則」と呼ばれる指数関数的な技術進歩のモデルを提唱し、それに従って登場する新技術がシンギュラリティをもたらすとしました。人間とAIの共生によりポストヒューマン(人類進化)が進むと考える人もいます。

日本では、2016年に経営からの引退を発表していたソフトバンクの孫正義氏が、シンギュラリティの到来を理由に電撃的に引退を撤回したことで話題となりました。孫氏はシンギュラリティによる産業構造の変化を予測しています。

前述しましたが、肯定論の中には、シンギュラリティを批判する考え方もあります。これは人類とAIが共存・繁栄できない可能性があることや、危険性を危惧していることが多いようです。アメリカの人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)は完全な自律兵器の開発・運用を禁止すべきだと2015年に要求しました。

「いずれ到達するが、かなり先」派

やや遠い未来になってから、シンギュラリティに到達すると考えている人々もいます。

これは、AI技術の進歩、とくに機械学習が進化することに加え、コンピュータが高度な演算能力を持つようになることや医学やバイオテクノロジーの進化によって人間とAIが「接続」できるようになることなどでシンギュラリティが起きる可能性があるとする考え方です。

AI技術を進化させるにはまだまだ多くの課題があるとされていることもあり、「いずれ到達する」考え方が妥当だと感じる人もいます。

「到達しない」派

AIのシンギュラリティが「来ない」とする否定派の意見もあります。現状のテクノロジーの延長線上で作られるAIはプログラムされたルールに基づいて判断をします。この仕組みでは、人間のような感覚(五感)や好みが理解できない上にプライバシーの概念を理解できない可能性が高く、AIが人間の能力を超えることはできないという考え方です。学者・研究者の中には既存の開発手法では「強いAI」は実現できないとする見方も存在しています。

人工知能の代表的な研究者のひとりであるスタンフォード大学教授ジェリー・カプラン氏は「人工知能は人間ではないので、人間と同じようには考えない」とし、AIは独立した目標や欲求を持てないのでシンギュラリティは来ないとしています。AIが人間のような「意識」や「自我」を持つことができるのかどうかについては、シンギュラリティの範囲を超えた議論がなされています。

また、後述しますが、2011年から行われた東大合格を目指すAIプロジェクト「東ロボくん(通称)」を率いた国立情報学研究所(NII)社会共有知研究センターの新井紀子氏はプロジェクトでの検証結果として「シンギュラリティは来ない」と話しました。

カーツワイル氏 vs ミッチ・ケイパー氏「2万ドルの賭け」

このようにAIに精通した研究者たちの間でも、シンギュラリティに到達するか、しないか、現在でも結論が出ていません。

およそ20年前に研究者たちの間で「チューリング・テスト(Turing test)に合格する人工知能が2029年までに開発されるか」という問いに対して長期に渡る「2万ドルの掛け」を行うプロジェクトが立ち上りました。

「チューリング・テスト」とは、数学者・哲学者のアラン・チューリング氏が考案した、機械が「人間的」かどうかを判定するテストです。「強いAI」ならばこのテストにパスできると考えられます。

この開発できる側に賭けているのがレイ・カーツワイル氏で、開発できない側に賭けているのがロータスデベロップメントの創業者のミッチ・ケイパー氏です。

シンギュラリティ1.png

以下のウェブサイトからは、それぞれの立場のステートメントと掛けの詳細なルールが記載されています。

3.人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の結果

2011年、国立情報学研究所(NII)が中心となって立ち上げた人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」において研究、開発が進められていたAIの通称が「東ロボくん」です。人工知能の研究を再統合することで新たな地平を切り開くことを目的にプロジェクトは開始されました。もし、AIが東京大学に合格できるなら、シンギュラリティに向けて一歩前進したということもできたと思います。

「東ロボくん」は2021年に東京大学の入試の突破を目標に開発が続けられましたが、2016年11月に東京大学合格は実現不可能として断念したと報道されました。「東ロボくん」は2016年度の模擬試験では高成績を残しましたが、学習していない問題に解答できなかったり、問題文の意味を理解すれば答えられる問題が苦手だったりと欠点がありました。

プロジェクトリーダーの国立情報学研究所(NII)社会共有知研究センターの新井紀子氏は「AIには意味が分からない、ただ、一番正しそうな選択肢を統計的に選ぶだけだ」と記しました。

「東ロボくん」はAIの限界を目に見える形で示してくれました。その一方で、数学で偏差値76.2を示すなど、一定の範囲では抜群の成績を残し、圧倒的な存在感を見せつけたのも事実です。

4.「第四次産業革命(4IR)」とは?

第四次産業革命(4IR:Fourth Industrial Revolution)とは、18世紀の産業革命から数えて4番目の新たな産業時代のことです。2016年の「世界経済フォーラム」で使われた言葉です。

実は「デジタル革命」といわれる、デジタル技術の進歩を柱とする第三次産業革命は現在進行中です。第三次産業革命がもたらした、AI(人工知能)や、拡張現実(xR)やブロックチェーン、量子コンピュータ、IoT、ロボット工学、ナノテク、バイオテクノロジーといった新技術の進化によってもたらされる次の革命が第四次産業革命とされています。

この到達点の一つにAIのシンギュラリティも含まれています。人間、AI、デジタル、生物の境界線が曖昧になり、人間の定義が変わってしまう可能性があるともいわれており、製造業だけでなく教育など社会のあらゆる面に影響を及ぼすことから、シンギュラリティを超えたインパクトがあるとされています。

今後、ディープラーニングなどのAI技術や、IoT技術における革新的な出来事は第四次産業革命に紐づけて論じられる機会が増えそうです。

まとめ

シンギュラリティ(Technological Singularity または Singularity)とは、アメリカの学者・発明家・思想家のレイ・カーツワイル氏が提唱したもので、人工知能が人間の知能を超える時点と、その先の未来が変わっていくことを示す言葉です。

AIの進化によってシンギュラリティに到達する可能性があるという考え方が示される一方、危険性を指摘したり懸念したりする意見も多数存在しており、到達はないとする見方もあります。

また、AIは第四次産業革命をもたらす有力な技術の一つとみなされていることもあり、今後の技術の動きだけでなく、議論の動きからも目が離せない状況が続きそうです。

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執筆: 大木 晴一郎

ライター

IT系出版社等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集を経験。その後、企業公式サイト運営やWEBコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター、企画編集者として記事の企画・編集・執筆に取り組んでいる。