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第18回 隣のQAに聞く
隣のQAに聞く 2024.01.22
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「ユーザーの立場で課題を可視化するのがQAの仕事」株式会社Preferred Robotics 稲葉 さやか 氏

執筆: Qbook編集部

ライター

「ユーザーの立場で課題を可視化するのがQAの仕事」株式会社Preferred Robotics 稲葉 さやか 氏

様々な現場でQA業務に携わっている方々の「声」をお届けする『隣のQAに聞く!』。多様化する人々の生活をより便利にするため、これまで業務用として培われていた技術で家庭用ロボットの普及が進んできました。

自律移動ロボットの研究・開発・製造・販売を行うロボット開発ベンチャーの株式会社Preferred Roboticsは、深層学習やSLAMといった先端技術を組み合わせ、産業用から家庭用まで暮らしを豊かにするロボットの開発に取り組んでいます。

人間がロボットと幸せに共存する社会を目指し、「すべての人にロボットを」を実現するため、様々な業界でロボットや深層学習の経験を積んだ人材を集めた同社では、どのようにQA組織が運営されているのでしょうか?
本記事では、同社の稲葉さやかさんにロボット業界におけるQAのミッションや、社内の専属QA1名で工夫しているポイントをお話しいただきました。

今回インタビューを受けてくださった方

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稲葉 さやか 氏

株式会社Preferred Robotics

文系大学を卒業後、営業職に従事。第2新卒でIT業界に転職後、SIerでAndroidスマートフォンの開発のプロジェクトにテスト担当者としてアサインされQA業務に携わるようになる。家庭向けロボットのQAを経験した後、2023年1月にロボット開発ベンチャーの株式会社Preferred Roboticsに入社。同社のQA第1号として家庭用自律移動ロボット "カチャカ" などの品証業務に携わっている。

もくじ
  1. 暮らしを豊かにするロボット開発に必要なQA
  2. 課題を可視化できるよう旗振りをするポジションに入り込む
  3. ユーザーの立場になって考えることが重要な視点
  4. ロボット業界だからこそ体現できる仕事がある

暮らしを豊かにするロボット開発に必要なQA

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https://kachaka.life/

――株式会社Preferred Roboticsではどのようなサービスを展開しているのでしょうか?

当社は、2021年11月1日に親会社であるAI開発ベンチャーのPreferred Networks(プリファードネットワークス、以下、PFN)からスピンオフしたロボット開発ベンチャーです。PFNが掲げる「すべての人にロボットを」を実現するため、様々な業界でロボットや深層学習の経験を積んだ人材を集結し、深層学習やSLAMといった先端技術を組み合わせ、産業用から家庭用まで暮らしを豊かにする自律移動ロボットの開発に取り組んできました。

具体的には、アマノ株式会社と共同開発した、AIを活用したロバスト性の高いSLAM技術を採用して自律移動性能を高めた次世代型業務用小型床洗浄ロボット"HAPiiBOT(ハピボット)"や、自社開発で、人の指示通りに自動で移動する家庭用自律移動ロボット "Kachaka(カチャカ)"などのプロダクトがあります。

――御社のQA/品証業務の位置づけ・ミッションを教えてください。

弊社ではQAの組織はなく、私が専属のQA第1号として入社し、現在も1人でカチャカのQA業務を担当しています。新しい機能をより早くお客さまに提供し、使ってもらうことをミッションに、安定したソフトウェアをリリースできるよう不具合の報告と試験の実施など全て自己管理で動いています。

課題を可視化できるよう旗振りをするポジションに入り込む

取材①.png

――QA担当としてサービス品質を改善していくために、工夫しているポイントがありましたら教えてください。

やはり1人でQA業務に携わっていると全てを網羅するのは難しいため、会社としてはユーザーと同じように社員がプロダクトを使い込んでフィードバックをしていく体制にしています。

いわゆるドッグフーディングといわれている手法で、ドッグフードを販売する会社がドックフードを自分で食べて改善したように、我々も自宅で実際にカチャカを使い「こうしたら便利だろうな」とフィードバックをどんどんもらっています。それこそソフトウェアのエンジニア以外にも、ビジネスサイドやハードウェアの設計など職種は関係なく、いろいろな方に使っていただくことでサービスの問題を洗い出し改善しています。

――全員がユーザー目線で品質意識を持っているということですね。

そうですね。ただし、そこで課題として上がったのは、不具合やフィードバック後の取りまとめです。なぜこの機能に満足していないかの情報整理や、課題に対する今後の取り組み方など、コメントは残していくものの、そこの課題の旗振りをするポジションは元々いませんでした。やはりそこはQAが一番得意な作業になるだろうと、私が入り込んで、新規の不具合か既知の不具合かの判断をし、問題を情報に過不足なくチケットに登録することで可視化できるように取り組んでいます。

――これまでの失敗談やそこからどのように挽回したのかお教えください。

いろんなケースを網羅できるように設計段階から考えることが足りていなかったり、作り込んだ後に画面のUIが足りなかったり、この文言がおかしいなど、「発売後も、ユーザ体験を高めていくために改善点が多い」状態です。その点において、QAではシフトレフトを意識し、設計などの早い段階で不具合を見つけることを強化していきたいと考えています。
※シフトレフトとは・・・ソフトウェアやシステムなどの開発サイクルで、品質保証のためにテスト工程を前倒しで行うアプローチ

――稲葉さんはQA第1号として入社し半年ほど経過し、QA活動の手応えみたいなものはもう感じ始めている頃ということですね。

そうですね。QAが不具合などをひとつひとつ丁寧に報告し続けることで、サービスの品質ラインはQAで上げることができると思っています。そのラインも私自身は入社したときよりも上がっていると思うので、品質ラインを上げた実績から、今後は設計段階でもコメントしていくことをQA活動として入れていきたいと考えています。

ユーザーの立場になって考えることが重要な視点

――どんなとき、QA/品証としての「やりがい・魅力」を感じておられますか?

やはりQAはテスト結果を伝え、不具合を第三者から見て伝えるレベルに落とし込まないと意味がないため、レポーティングの力がかなり必要だと思っています。当社では単体テストレベルで音声認識のテストなども実施し、自分自身の見解を言語化して、相手にどこを課題として感じてもらうか伝えなければいけません。開発エンジニアとのコミュニケーションが多いポジションなので、開発エンジニアに「QAのおかげで不具合がいっぱい見つかった」とか、「その視点で見つけるのはさすがだね」など、お褒めの言葉をいただくとQAとしてのやりがいを感じます。

また現代はSNSの時代なので、TwitterなどのSNSでユーザーの方が満足して使っていただいているような発言を見ると、やはり嬉しくなりますよね。

――業務を遂行する上で「大事にしていること」は何でしょうか?

ユーザーの立場になって考えることが一番重要だと考えています。アプリの通知の文言一つとっても、細部まで考える必要がありますよね。たとえばユーザーがエラー通知を見て対処法がわからなければ、通知の意味がありません。QAとしては不具合を報告して終わりではなく、FAQやマニュアルに落とし込むなど、ユーザーが困らないように最善を尽くすことが大事と言えるでしょう。そこで当社ではソフトウェアの範囲に限定せずに、ユーザー向けのFAQもQAとして管理し整備しているところです。

あとは、私自身が前職で開発の部隊に入っていた時期もあるため、開発エンジニアへの尊敬がかなりある方だと思います。QAとして何か自分のおかげでというおごりはなく、「エンジニアの方が作ってくれているからこその製品」と考えて日々業務にあたっています。

ロボット業界だからこそ体現できる仕事がある

取材②.png

――今後、業務を通じて達成したいことなどございましたらお教えください。

私は女性も男性と同じように働けることを体現していきたいという思いがあるので、これからも責任あるポジションで結果を残して行きたいです。それをきっかけに「もっと働きたい」と考えている女性の方に良い影響を与えられたらうれしいです。

やはりロボットは複雑で大変なプロダクトだなと日々感じますが、だからこそやりがいに繋がるのではないかなと思います。
またベンチャーや小規模の会社であればエンジニアの方と近い距離で働けるので、ものづくりをしたい、自分で品質のレベルを作りたいと考えている方にはぴったりな業界なのではないでしょうか。
私がそうだったように、ITに興味を持っている文系出身の方も丁寧に仕事する人であればウェルカムな業界なので、もっと身近になればいいなと感じています。

隣のQAに聞く
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執筆: Qbook編集部

ライター

バルテス株式会社 Qbook編集部。 ソフトウェアテストや品質向上に関する記事を執筆しています。