「狩野モデル」は、顧客にとって高品質な製品やサービスを生み出すうえで有力なフレームワークです。
昨今のソフトウェア開発にも活用できるため、ソフトウェアの品質を高めたいと考えているのであれば、狩野モデルの理解を深めることが品質向上に役立つでしょう。
今回は狩野モデルとは何か、基本の構成から分かりやすく解説します。ソフトウェア開発で狩野モデルを取り入れる際の流れやポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
- もくじ
1.狩野モデルとは
狩野モデルとは、顧客が求める品質のあり方をモデルによって可視化し、顧客満足度の向上を実現するフレームワークを指します。東京理科大学の名誉教授である狩野紀昭(かのうのりあき)氏が生み出しました。読み方は「かのうモデル」です。
「品質」とひと口にいっても多岐にわたり、顧客視点でいえば品質項目ごとの性質は異なります。狩野モデルでは、こうした性質の違いをもとに品質を5つに分類します。各品質項目の性質を明らかにすることで、顧客がどのような品質を求めているかが明確になるのです。
2.狩野モデルを構成する5つの品質
狩野モデルを構成する5つの品質について知っておきましょう。具体的には、「魅力的品質」「一元的品質」「当たり前品質」「無関心品質」「逆品質」の5種類です。それぞれの品質について詳しく説明します。
2-1 魅力的品質
「魅力的品質」は、顧客にとって必須ではないものの、魅力と感じる品質です。その品質があれば顧客の満足度は高まり、なかったとしても満足度は低下しません。製品やサービスの評価にプラスアルファをもたらす品質であり、他社との差別化を図れます。ただし、顧客にとっては「なくても仕方ない」品質のため、最優先すべきとまではいえません。
2-2 一元的品質
「一元的品質」は、顧客にとって評価の良し悪しが明確に分かれる品質です。その品質があれば顧客の満足度は高まりますが、なかった場合は反対に満足度が低下します。中立的な評価がほぼ存在せず、一歩間違えるとプラス評価がマイナス評価に転じる場合もあるでしょう。品質に対する評価を高めるうえで、できる限り満たしておきたい品質といえます。
2-3 当たり前品質
「当たり前品質」は名前のとおり、その製品やサービスに備わっていて当たり前とされる品質です。たとえば、会計ソフトにおいて「正確な計算が行えること」は当たり前品質といえます。正確な計算が行えたとしてもプラス評価は得られないでしょう。反対に、この品質が満たされないと顧客の満足度が低下しやすいため、特に優先すべき品質です。
2-4 無関心品質
「無関心品質」も名前のとおり、顧客がほとんど関心を持たない品質です。その品質があってもなくても、顧客の満足度にはほとんど影響しません。無関心品質を満たすための労力が報われる可能性は低いため、品質の優先度も低くなります。裏を返せば、余計な労力を割かずに済む品質であるため、しっかりと把握しておくべきです。
2-5 逆品質
「逆品質」は、顧客の満足度に対して逆方向に作用する品質です。その品質があることで顧客の満足度がかえって低下したり、ないことで満足度が高まったりします。簡単にいえば、顧客にとっては「余計なお世話」な品質と位置付けられます。逆品質を満たすための労力をかける必要は当然ありませんが、意図せず満たしてしまう場合は対策が必要です。
3.狩野モデルを開発に取り入れる3つのメリット
狩野モデルはソフトウェア開発においても有効なフレームワークといえます。狩野モデルを開発に取り入れるメリットは、主に次の3つです。
3-1 品質の優先順位が明確になる
狩野モデルによって品質を分類することで、優先順位の明確にできます。
理想的な順序とされているのは、当たり前品質、一元的品質、魅力的品質の順です。分類によって品質項目にわかりやすい優先順位が付くため、どの品質を満たすことに注力すべきかが明確になるでしょう。
製品やサービスには多くの品質項目がありますが、現実的には全てを満たすことは困難です。効果的に品質を高めるうえで、品質の優先順位が明確になることは大きなメリットといえます。
3-2 アンケートで客観的にニーズをつかめる
狩野モデルでは、顧客やエンドユーザーに対してアンケートを実施する場合があります。たとえば「会計ソフトの計算が不正確だった場合、どのように感じますか?」といった質問に対して、率直な感じ方を複数の選択肢から回答してもらいます。
顧客やエンドユーザーがその品質に対してどのように感じるのか、アンケートで実態の把握が可能です。製品やサービスを発注・利用する側からの意見を取り込めるため、開発者の先入観を排除でき、客観的にニーズをつかめるでしょう。
3-3 アジャイル開発と相性が良い
狩野モデルは、ソフトウェア開発の中でも昨今の主流である「アジャイル開発」と相性が良いといえます。アジャイル開発は、開発項目単位で短期間の開発サイクルに区切り、細かいサイクルを繰り返しながら開発を進めていく手法です。
機能追加やバグ改修など、さまざまな開発項目から優先的に開発すべきものを選ぶ必要があります。このとき狩野モデルを採用すれば、どの開発項目が顧客やエンドユーザーに求められているかを客観的に把握可能です。結果として、ソフトウェアの満足度向上につながりやすい品質を効果的に高められます。
4.狩野モデルを開発に取り入れる際の流れ
狩野モデルの基本やメリットは把握できても、具体的な流れはイメージしづらいでしょう。ここでは、「スクラム開発」に狩野モデルを取り入れるケースを例に、大まかな流れを紹介します。スクラム開発は、アジャイル開発において広く採用される手法です。
スクラム開発については、以下の記事で詳しく紹介しています。
4-1 品質項目の洗い出し
顧客やエンドユーザーに対してアンケートを実施するにあたって、質問内容を決めなければなりません。質問内容のもとになるのが、具体的な品質項目です。そのため、まずは品質項目の洗い出しが必要となります。
スクラム開発では、プロダクト(成果物)に対する開発項目を「プロダクトバックログ」としてリスト化することが一般的です。プロダクトバックログに挙げる開発項目を洗い出す作業が、結果的に品質項目の洗い出し作業となります。できる限り利用者・発注者側の目線に立ち、追加すべき機能や求められるパフォーマンスなどを検討しましょう。
4-2 アンケートの実施
洗い出した品質項目をもとにアンケートを実施します。スクラム開発では、基本的にプロダクトバックログの開発項目が品質項目であり、アンケートの質問項目にもなります。
アンケートの選択肢や質問方法はさまざまですが、「高品質(品質を充足)」と「低品質(品質を不充足)」の両視点から質問することが一般的です。たとえば、「会計データのエクスポート機能」を品質項目とした場合、次のように2つの質問が考えられます。
質問1.会計ソフトにエクスポート機能があった場合、どのように感じますか?
・良いと感じる
・当然である
・なんとも感じない
・仕方がない
・良くないと感じる
・その他
質問2. 会計ソフトにエクスポート機能がなかった場合、どのように感じますか?
・良いと感じる
・当然である
・なんとも感じない
・仕方がない
・良くないと感じる
・その他
このように、同じ機能に対して「あった場合」「なかった場合」の質問を用意して回答してもらうことで、品質項目を狩野モデルの5つの品質に分類可能です。
4-3 アンケート結果の整理
顧客やエンドユーザーにアンケートを実施した後は、結果を整理します。品質項目に対する質問2つを次のような表に当てはめ、5つの品質に分類することが一般的です。回答ごとに点数を設定し、総合的に品質項目を評価するケースもあります。
充足\不充足 | 良いと感じる | 当然である | なんとも感じない | 仕方がない | 良くないと感じる |
---|---|---|---|---|---|
良いと感じる | 懐疑的 | 魅力的品質 | 魅力的品質 | 魅力的品質 | 一元的品質 |
当然である | 逆品質 | 無関心品質 | 無関心品質 | 無関心品質 | 当たり前品質 |
なんとも感じない | 逆品質 | 無関心品質 | 無関心品質 | 無関心品質 | 当たり前品質 |
仕方がない | 逆品質 | 無関心品質 | 無関心品質 | 無関心品質 | 当たり前品質 |
良くないと感じる | 逆品質 | 逆品質 | 逆品質 | 逆品質 | 懐疑的 |
回答者ごとの品質項目に対する評価を集計し、どの品質がどの分類にあたるかを明確にします。なお「懐疑的」は、回答の結果が疑わしいという意味合いです。相反する質問に対してどちらも同じ回答となっているため、矛盾しているといえます。
4-4 アンケート結果にもとづき対応順序を検討
整理したアンケート結果にもとづき品質項目に優先順位を付け、対応順序を検討します。一般的に、当たり前品質⇒一元的品質⇒魅力的品質の順に取り組むことが理想です。
同じ分類の品質が複数ある場合、より詳細な回答結果や対応の難易度、見積り工数なども参考にしながら対応順序を決めます。スクラム開発では、優先順位の高い開発項目からチームメンバーにアサインすることになるでしょう。
まとめ:狩野モデルで効果的に品質改善を図ろう
狩野モデルとは、顧客が求める品質のあり方をモデルによって可視化し、顧客満足度の向上を実現するフレームワークです。顧客やエンドユーザーにアンケートを実施し、その結果に応じて魅力的品質・一元的品質・当たり前品質・無関心品質・逆品質に分類します。
狩野モデルは、品質の分類によって優先順位が明確になる、アンケートによって客観的にニーズをつかめる、などのメリットがあります。また、狩野モデルはアジャイル開発といったソフトウェア分野にも有効です。
狩野モデルを活用して、効果的に品質改善を図りましょう。