ソフトウェア開発における「テスト設計」は、どのようなテストを実施するかを明確にし、テストケースに落とし込むプロセスです。
これは、ソフトウェアの品質保証に欠かせないプロセスですが、「テスト設計は難しい」と感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、テスト設計が難しい理由を解説します。併せて、テスト設計で避けるべきアンチパターン(悪い見本)や、成功のコツも紹介するため、テスト設計に悩む方はぜひ参考にしてください。
1.テスト設計を「難しい」と感じる主な3つの理由
システムやソフトウェアのテストを行う上で、テスト設計は重要なものですが、「難しい」と感じられる方も多いのではないでしょうか。
この章では、テスト設計を難しいと感じる主な3つの理由について解説していきます。
1-1 テストケース数が増えやすい
一つ目は、テスト設計の重要な成果物である「テストケースの数が増えやすい」という点です。
昨今のソフトウェアは高機能化・複雑化が進み、入力データや操作などのバリエーションが増えています。ソフトウェアのバグを漏れなく検出するためには、こうしたバリエーションを網羅するだけのテストケースを作成しなければなりません。
ソフトウェアの規模が大きくなるほどテストケース数も膨大となり、テスト担当者の業務負荷は上がります。
アジャイル開発(短い開発サイクルを繰り返していく手法)では、従来のウォーターフォール型開発のように詳細なテストケースを作成しませんが、サイクルを繰り返すたびにテスト文書が煩雑になる可能性があります。
1-2 テストケースの慎重な取捨選択が必要
二つ目は、「テストケースの取捨選択が必要になる」点です。
テスト設計ではテストケースの作成だけでなく、慎重な取捨選択が必要です。
前述で解説したように、テストケース数は増えやすく、大規模なソフトウェアだと数千件・数万件を超えるケースもあります。
しかし、こうしたテストケースを全て実施することは現実的に困難です。
そのため、限られたテスト工数で成果を最大化するためには、テストケースに優先順位を付け、実施項目を絞らざるを得ません。優先順位が高いものから実施することで、効率的にバグを検出できます。テストケースの優先順位付けでは、バグ発生の確率や推定被害などを加味します。
誤った優先順位付けを行うと、重要なテストケースを見逃し、重大なバグを見逃しかねないため、テストケースの優先順位付けや取捨選択には、慎重さが求められます。
1-3 「どこまでやればいいか」がわかりづらい
「どこまでやればいいかがわかりづらい」という点も、テスト設計の難易度を高めています。
一般的なソフトウェアには、入力データや事前条件などの組み合わせが無数に存在します。そのため、あらゆるテストケースを完全に網羅することは基本的にできません。
こうした大前提があるので、「ここまでやればバグを100%検出できる」とは言い切れません。
テストケースを増やそうと思えば、いくらでも増やせるため、テスト設計ではテスト範囲の明確な線引きが難しく、作業量が増えやすいといえます。
▼テスト設計の概要や目的についてはこちらをご覧ください。
2.テスト設計で避けるべきアンチパターン
テスト設計には、さまざまなアンチパターン(悪い見本)があります。テスト設計での失敗を防ぐためには、アンチパターンを避けることが大切です。
ここでは、テスト設計で避けるべきアンチパターンを7つ紹介します。
2-1 事前のテスト分析を軽視する
テスト設計の前段階で実施する「テスト分析」を軽視してはいけません。
なぜなら、テスト分析をおろそかにすると、テストすべき観点や範囲が誤った方向に進んだり、遠回りなってしまうことがあるからです。
具体的には、優先順位が低いテストケースの作成に時間を取られ、重要なテストケースを作成する時間が足りなくなる、といったことが起きてしまいます。
テスト分析は、前提情報となる仕様や設計などを分析し、「何をテストすべきか」を明確化するプロセスです。
テストのヌケモレを防ぐためにも、適切なテスト分析を行うことを意識しましょう。
2-2 テストベースをそのまま使う
「テストベース※」の内容を何も考えず、そのまま使うことは避けましょう。※テストベースとは、テスト分析やテスト設計のベースとなる前提情報(仕様や設計など)のこと。
なぜなら、要件定義書の記載のままだと、具体的な操作や表示などがイメージしづらく、テスター(テスト実施者)に伝わらないことが多いからです。
要件定義書の記載内容をコピーアンドペーストする、といったテストケースの作成方法はNGです。
テストベースは重要な参考情報となるので、適切な形でテストケースに落とし込みましょう。
2-3 利用シーンを考慮しない
ユーザーの利用シーンを考慮しないのもNGです。
利用シーンを考慮せずにテストケースを作成すると、重要なテスト観点やテストケースを見逃してしまいます。
たとえば、手入力の時間を削減したいユーザーは、コピーアンドペーストで入力欄を埋めることが想定されます。
こうした利用シーンを考慮しないと、コピーアンドペーストに関するテストケースが漏れてしまうでしょう。
2-4 具体性に乏しい
具体性に乏しいテストケースを作成するのはNGです。
テストケースの前提条件や実施手順などがあいまいだと、テスターが内容を理解しづらくなります。
それどころか、テスターが実施方法を勘違いしてしまい、無意味なテスト結果となるケースもあります。
たとえば、「完了メッセージが正しく表示されること」という期待結果では、何をもって正しいと判断するのかが不明確です。
想定される表示位置やメッセージ内容など、具体的な情報も記載すべきでしょう。
2-5 情報共有が不十分なまま進める
複数人でテストを分担する場合、情報共有が不十分なままテスト設計を進めるのはNGです。
情報共有が不十分だと、理解不足や認識違いを抱えたままテストケースを作成することになります。結果として、後から問題が判明して手戻りが増えてしまうでしょう。
特に、独立したテストチームに所属している場合、開発チームから必要な情報が届かないケースも少なくありません。
このような場合、開発チームへの問い合わせを行うなどして、情報共有の問題を解消してからテストケースの作成に取り組むべきです。
2-6 同じテストケースを流用し続ける
同じテストケースを流用し続けるのも注意が必要です。
アジャイル開発のように、開発サイクルごとにテスト工程を行う場合、同じテストケースを流用する場面が散見されます。
テスト設計の省力化には有効ですが、「殺虫剤のパラドックス」に陥りやすいことを知っておきましょう。
殺虫剤のパラドックスとは、同じテストケースを流用し続けると、新しいバグを検出しづらくなる現象のことです。
つまり、実施回数を重ねるごとに、同じテストケースで得られる成果が少なくなってしまいます。そのため、テストケースは定期的に見直し、新しいテストケースの追加も検討することが理想です。
※自動化された回帰テストなど、繰り返し同じテストを実行する場合もあります。しかし、本当に同じテストケースでよいか、追加要素は無いか、といった見直しは必要です。
2-7 先入観を持って進める
先入観を持ってテスト設計を進めるのはNGです。
勝手な思い込みを抱えたままテスト設計を進めると、重要なテスト観点やテストケースを見逃しかねません。
たとえば、「ボタンの位置を変更しただけなら問題は発生しないだろう」といった先入観を持つのは危険です。
ボタンの位置を変更したことで操作性が低下したり、処理のタイミングに思わぬ影響が生じたりするケースも考えられます。
3.難しいテスト設計を成功させる方法
ここでは、難しいテスト設計を成功させるための方法を7つ紹介します。テスト設計が難しいと感じる方は、これらの方法を取り入れてみましょう。
3-1 テスト分析をしっかり行う
前述のとおり、テスト設計の前段階でテスト分析をしっかり行うことが大切です。
テスト分析の時間を惜しんでテスト設計を急ぐと、テストケースの不備が増え、結果として時間がかかるケースもあります。
適切なテスト分析を行い、テストすべき観点や範囲を明確にしたうえでテスト設計に進みましょう。
3-2 背景や目的を正確に理解する
テスト設計にあたって、テスト対象が開発される背景や目的を正確に理解しましょう。
背景や目的を把握することで、顧客やユーザーが抱える要求を明確にでき、テスト観点やテストケースを考える際に誤った方向へ進むことを防げます。
背景や目的の理解はテスト分析の段階で行い、そこからテスト設計につなげます。
3-3 テスト設計レビューをしっかり実施する
チーム内で、テスト設計レビューをしっかり実施しましょう。
なぜなら、1人で行うテスト設計では、見落としや勘違いが発生しやすいからです。
テスト設計レビューでチームメンバーからのチェックを受けることで、客観的に問題がないかを検証できます。テスト業務の経験年数に関わらず、レビューにより客観的なチェックを受けることは大切です。
ただし、テスト設計に不備が多いとレビューの指摘事項が増え、レビュー工数も増大してしまいます。
段階的詳細化(粗い要素を段階的に細かい要素に分割していく手法)のプロセスで確実にテスト設計を進め、そのうえでテスト設計レビューを行いましょう。
3-4 過去のテスト結果からフィードバックを得る
過去のテスト結果を振り返り、フィードバックを得ましょう。
たとえば、どのようなテストケースでバグが多発しているかを分析することで、改善点が見えてきます。
過去のテスト結果から得られたフィードバックを取り入れることで、より効率的で効果的なテスト設計が可能となるでしょう。テスト結果は常に蓄積していき、継続的に振り返りを実施することも大切です。
3-5 テスト技法への理解を深める
テスト技法への理解を深め、適切に取り入れましょう。
たとえば「同値分割法」を正しく取り入れることで、テストケース数の増加を抑制できます。
テスト設計に役立つテスト技法は多岐にわたりますが、正しく理解していなければ使いこなせません。
参考書や学習サイトなどでテスト技法への理解を深め、テスト設計を効率化しましょう。
3-6 テストケースのテンプレートを活用する
テスト設計を効率化するために、テストケースのテンプレートを活用するのもおすすめです。
必要事項が整理されたテンプレートを活用すれば、スムーズにテストケースを作成できます。また、チーム内でテストケースのフォーマットを標準化することも可能です。
当サイト「Qbook」では、テストケースを効率的に作成するためのテンプレートを提供しています。
このテストテンプレートは、テスト専門企業であるバルテスが、ソフトウェアテストを主軸に、品質向上・生産性向上に関連する知見を体系化した「QUINTEE」に基づいて、実務に取り入れやすいよう作成しています。
無料会員登録でダウンロード可能ですので、ぜひご活用ください。
3-7 ツールで効率化・自動化を図る
熟練したテストエンジニアでも、手作業でのテスト設計には多くの時間を要します。
テスト設計の負担を軽減するには、ツールを用いて効率化・自動化を図りましょう。テストケースの作成を支援するツールを使えば、テスト設計の大幅な省力化につながります。
たとえば、「Qumias Plus」を活用することで、組み合わせテストのテストケースを自動で生成することが可能です。
OSやブラウザといった複数条件を組み合わせてテストする場合、手作業では膨大なテストケースを作成する必要がありますが、Qumias Plusを活用すればその手間を大幅に削減できます。
組み合わせテストを効率化したい場合は、ぜひご活用ください。
まとめ
テスト設計はテストケース数が増えやすく、慎重な取捨選択が必要なため、難しいと感じる方が少なくありません。テスト設計で失敗しないために、次のアンチパターンは避けましょう。
- 事前のテスト分析を軽視する
- テストベースをそのまま使う
- 利用シーンを考慮しない
- 具体性に乏しい
- 情報共有が不十分なまま進める
- 同じテストケースを流用し続ける
- 先入観を持って進める
テスト設計には難しい部分もありますが、適切なテストを実施するために避けて通れないプロセスです。テスト設計が難しいと感じる方は、今回の内容をぜひ参考にしてください。
なお、ソフトウェアテストの学習には、オンライン教育プラットフォーム「VALDEMY(バルデミー)」もおすすめです。VALDEMYを利用すれば、テスト設計をはじめとするソフトウェアテストに関する知識を、オンラインで効率的に学べます。