打ち合わせや雑談の中で、相手がたびたび「ジット」と言っているのを聞いて「?」となったことはありませんか?ソースコードなどのバージョン管理をしてくれる『Git』は「ギット」と読みます。
ITビジネスの現場では常に新しい言葉が誕生したり、言葉の意味が変化したりしています。ビジネスの場ではこれらの変化に常に追従し、誤解のないようにしたいものです。
今回の記事では、このような読み間違いやすいIT用語、混同しやすいIT用語、そして間違えやすいIT用語を紹介します。
1.読み間違いしやすいIT用語
この章では読み間違いしやすい用語を5つご紹介します。
1-1 「Git」=「ギット」
冒頭で紹介したバージョン管理システムのGitは「ジット」ではなく「ギット」と呼びます。「ろくでなし」といった意味の単語であるgitも「ギット」に近い発音です。
GitはLinuxカーネルの開発者として知られているリーナス・トーバルズが、カーネル開発の管理用に開発したもので、トーバルズ氏本人も「ギット」に近い発音をしています。
1-2 「Alt」=「オルト」
お使いのキーボートに「Alt」と書かれているキーがあります。ついついローマ字読みで「アルト」と呼びたくなりますが、Altの元々の単語は「Alternative」「Alternate」であり、「オルタナティブ」「オルタネイト」に近い発音なので、正しくは「オルト」と呼びます。
1-3 「GIF」=「ジフ」
GIFは今ではあまり使われていない画像フォーマットの名称で、Graphics Interchange Formatの略称です。256色以下の画像を扱えるほか複数の画像を1ファイルに統合してアニメーション表示を実現する機能拡張が行われています。
そんなGIFですが、読み方は「ジフ」となります。Gitが「ギット」ですからGIFも「ギフ」と呼びたくなりますが、GIFの設計者(Steve Wilhite氏)が2013年に「ジフ」を正しい読み方と説明しました。
GIFの発音については、長く論争があり、Wikipediaで項目になるほどの広がりを見せました。
1-4 「IEEE」=「アイトリプルイー」
無線LANの規格「IEEE 802.11」やアップルが手掛けたシリアルバスの「IEEE 1394(FireWire)」などで、「IEEE」という文字を目にしたことがあるでしょう。
IEEEは、日本語では米国電気電子学会と呼ばれる団体ですが、こちらは「アイトリプルイー」と読みます。母音が連続しているのでそのまま「アイイーイーイー」では読みづらくなります。
1-5 「デザリング」ではなく「テザリング」
スマートフォンなどのモバイル通信端末を無線LANのアクセスポイントとして機能させることで、モバイル通信機能を持たないパソコンやタブレットを外出先や屋外で利用することができます。この仕組みを「テザリング」と呼びます。元の英単語tetherは牛や馬などの動物を「縄でつなぐ」という意味を持ちます。スマートフォンに無線で「つながれた」デバイスでインターネットを利用するというイメージでしょうか。
このテザリングですが、昨今「デザリング」という誤用を見かける機会が増えています。濁点のない「テザリング」が正しいです。似たような表記の単語として「ディザリング(ディザ)」が挙げられます。ディザリングはアナログデータをデジタル化する際に、意図的にノイズを加えることでより自然に変換できるようにする技術のことです。デザリングという誤用は、このディザリングとの混同の結果生じたものかもしれません。
2.混同しやすいIT用語
続いて、意味が似ている混同しやすいIT用語をご紹介します。
2-1 「IT」と「ICT」
「IT」と「ICT」は、よく似ています。
ITは「Information Technology」の略称で日本語では「情報技術」、
ICTは「Information and Communication Technology」の略称で日本語では「情報通信技術」
となります。
日本国内では経済産業省がITを、総務省がICTを使っています。
情報を扱うには通信が不可欠であり、ITとICTには実質的に大きな差はありません。海外ではICTのほうが主流であり、今後国内でもICTが多く使われるようになるかもしれません。
2-2 「マルチクラウド」と「ハイブリッドクラウド」
「マルチクラウド」と「ハイブリッドクラウド」はいずれも複数のクラウドプロバイダーやプライベートクラウドを利用する手法です。
マルチクラウドが複数のクラウド環境を併用して運用する手法であるのに対し、ハイブリッドクラウドは複数のクラウド環境を互いに接続し一つのシステムとして運用する手法といった違いがあります。
2-3 「ログイン」と「ログオン」と「サインイン」
システムの利用開始時にユーザーの確認を行う操作は「ログイン」「ログオン」「サインイン」と様々な名称が付けられています。
大まかに、Windowsでは「ログオン」が、LinuxなどのUNIX系OSでは「ログイン」が使われています。
反対にシステムの利用を終了する際の「ログオフ」「ログアウト」「サインアウト」も同様です。これらの用語で一つだけ注意する点は、サインイン(Sign in)とサインアップ(Sing up)は別だということです。サインアップは新規のユーザー登録という意味になります。
サインインとサインアップは別
2-4 「暗号化」と「ハッシュ化」
「暗号化」と「ハッシュ化」はまったく異なる作業ですが、あまり区別せず使われている場面を見かけます。人間が読める文を読めないようにするということでは同じなので、混同しているのかもしれません。
「暗号化」は、元の文(平文)を他の人には読めない文(暗号)に変換する作業です。暗号は適切な方法を用いることで、元の平文に戻すことができます。モダンな暗号では、この「適切な方法」として「鍵」と呼ばれるデジタルデータを用います。元の文を見ていい人だけがこの鍵を持つことで、情報漏洩を防ぎます。
(余談ですが、この暗号を元に戻す作業のことを「復号」と言います。つまり「暗号化」の逆の作業は「復号」であり「復号化」は間違いです。)
一方のハッシュ化は、元の文(データ)をハッシュ関数に入力することで得られるハッシュ値を得る作業のことです。暗号化と異なり、ハッシュ値から元のデータを復活させることは非常に困難であり、事実上できません。この特性を利用して、ハッシュ化はあるデータが改ざんされたものでないことを証明するために用いられます。
一例を挙げますと、Linuxディストリビューションのインストール用ISOイメージファイルをダウンロードする際には、ハッシュ値を記録されたファイルも入手できるようになっています。以下に示す画像は、CentOSの後継の一つであるAlma Linuxのダウンロードディレクトリーです。CHECKSUMというファイルに各ISOイメージファイルのハッシュ値が記録されており、ダウンロードしたファイルのハッシュ値を計算して比較照合することで、ファイルがオリジナルのものであるかどうかを確認できます。
ハッシュ値はCHECKSUMに記録されている(図の最下部)
2-5 「ライブラリ」と「フレームワーク」
「ライブラリ」と「フレームワーク」はいずれもソフトウェア開発を効率化するためのものです。
ライブラリは、ログの処理、データベースのアクセスといったアプリケーションでよく用いられる処理に関するコードをまとめたものです。アプリケーションを作るたびにすべての機能を一から作るのではなく、汎用性の高い処理はライブラリを用いることで、開発の効率化を実現します。
一方のフレームワークは、すべてのアプリケーションに共通な部分(例えば終了ボタンや印刷機能など)があらかじめテンプレートとして用意されており、そこにそのアプリケーションで実現したい機能を追加していくものです。
ライブラリとフレームワークのどちらを用いるのかは、ケースバイケースです。自由度はライブラリのほうが高いですが、典型的なアプリケーションを作るのであればフレームワークのほうが楽でしょう。
2-6 「Git」と「GitHub」
読み間違いやすい用語の項でも紹介した「Git」は、ソースコードなどの変更履歴を記録するバージョン管理システムです。コマンドラインで利用するgitコマンドのほか、「GitHub Desktop」というアプリケーションも提供されています。
一方「GitHub(ギットハブ)」は、バージョン管理にGitを使用したソフトウェア開発プラットフォームです。Gitを中心に、複数ユーザー間のコードレビュー機能やCI/CDサービスなどを提供しています。
2-7 「クラウドネイティブ」と「クラウドファースト」
「クラウドネイティブ」とはオンプレミスをクラウドに置き換えるだけでなく、クラウドのメリットを最大限に利用するシステムのことを言います。基本的に、設計から運用まですべてクラウドで行うことです。
かたや「クラウドファースト」はシステム構築の際にクラウドの利用を最優先する考え方のことを言います。できるだけクラウドを利用しようとするが、部分的にオンプレミスが採用されるケースはクラウドファーストとなります。基本的な感覚としては、クラウドファーストを一歩推し進めたものがクラウドネイティブとなります。
2-8 「ノーコード」と「ローコード」
「ノーコード」はプログラミングをする際に、ソースコードを一行も書かないでシステム開発ができる仕組みのことです。コーディングが不要な開発環境とされています。
「ローコード」はソースコードを非常に少ない記述でシステム開発を可能にしたもので、ノーコードより高度な開発が可能になっていることが多いようです。この境界線が曖昧なことがあるため、最近では「ノーコード・ローコード」と併記されるケースが増えているようです。
2-9 「2要素認証方式」と「2段階認証方式」
パソコンやサーバー、クラウドサービスにログインするとき、セキュリティを守るため、2つ以上の要素を使って認証することを「多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)」と言い、要素として知識要素、所有要素、生体要素を使います。「2要素認証」は、このうち2つを用いた認証方法です。
「2段階認証」は、認証の段階を2回、行うことをいいます。要素の数は問われず、あくまでも手順が2回であることを意味しています。
2-10 「認証」と「認可」
「認証」はセキュリティにおいて、相手が「誰か?」を確認して特定することです。英語では「Authentication」で、「AuthN」と略されることもあります。認証には、要素として知識要素、所有要素、生体要素を用います。
「認可」は、特定の条件下で、リソースにアクセス権限を与えて利用可能にすることを言います。英語では「Authorization」で、「AuthZ」と略記されまることもあります。
2-11 「KB(キロバイト)」と「kbit(キロビット)」
「KB(キロバイト)」はデータ量の単位の一つです。1000byte(バイト)または1024byteで「kB」「KB」「KByte」と示されることもあります。
1KBはビットに換算すると8kbit(キロビット)になります。このように文字列として見た目は似ていますが、単位としては異なります。8bitが1Byteとなるため、換算には注意が必要です。
2-12 「コンパイル」と「ビルド」と「デプロイ」
テキストで書かれたプログラムのソースコードをコンピュータで実行可能な形式に変換することを「コンパイル(compile)」と言います。コンパイルされたファイルは「オブジェクトファイル」と呼ばれます。
複数のオブジェクトファイルや外部ライブラリを連結(リンク)して、実行可能形式にしていくことを「ビルド(build)」と言います。
ビルドは、組み立てられた実行ファイルの特定バージョンを指す場合もあって、バージョンまたは「版」に近い意味で用いられることもあります。
「デプロイ(deploy)」とは「デプロイメント(deployment)」のことで、ソフトウェアを実際の運用環境に配置して、実用・運用を開始することを言います。
これらはエンジニアが混同することは少ないようですが、一般では混同されることがあるようです。
3.間違えやすいIT用語
最後に名称が似ていて間違えやすいIT用語についてご紹介します。
3-1 「VPS」と「VPC」
「VPS」と「VPC」の名称は似ていますが、それぞれ別のものを指します。
「VPS(Virtual Private Server)」は日本語では「仮想プライベートサーバー」であり、仮想化技術によりサーバー上に複数の仮想マシンを作成し、ユーザーに提供するものです。ビジネス向けから個人向けまで幅広いスペックで提供されており、特に個人向けでは月額数百円程度の安価なサービスも存在しています。
一方の「VPC(Virtual Private Cloud)」は日本語では「仮想プライベートクラウド」です。「仮想」が付かない「プライベートクラウド」は企業・組織が自前でデータセンターを持ち、自社グループ内だけで利用するクラウドシステムです。これに対し、仮想プライベートクラウドは、パブリッククラウド上に構成された自社グループ内だけで利用できる独自のスペースです。VPSを利用することで、自前のデータセンターの管理コストをかけることなく、ネットワークから隔離されたプライベートクラウドを持つことができます。
3-2 「ECS」と「EKS」
「ECS」と「EKS」はどちらもAWSが提供するサービスです。ECSは「Elastic Container Service」、EKSは「Elastic Kubernetes Service」の略称です。両者ともコンテナを用いたサービスで、その差はコンテナの管理方法です。
ECSはAWSが開発したソフトウェアで管理を行っているのに対し、EKSはKubernetesをベースにしているマネージドKubernetesサービスです。
どちらを選べば良いのかは一概には言えませんが、例えばAWSに慣れているがKubernetesの知見がない場合はECSを、すでにKubernetesを利用していてマルチテナントでの運用を視野に入れているのであればEKSを選択するといった選び方がされているようです。
3-3 「PoC」と「PoV」
PoCとPoVはいずれも新しい技術や仕組みを導入する前に行われることです。
「PoC(Proof of Concept)」は日本語では「概念実証」であり、新しい技術や仕組みが正しく機能するかどうかの検証作業です。
「PoV(Proof of Value)」は日本語では「価値実証」であり、その新しい技術や仕組みが投資をして導入する価値があるかどうかの検証作業です。
3-4 「CPU」と「GPU」
「CPU」は古くから使われている用語で「Central Processing Unit」の略称です。文字通りコンピュータの機能における中心的な役割と言える演算処理を行います。
一方「GPU」は「Graphics Processing Unit」の略称で、コンピュータの画面表示関連の処理を行う製品です。特に3D機能を用いた描画を高速化するための演算処理に長けています。なお半導体の集積技術の向上により、GPUの機能はCPUに統合することができています(2022年時点)。
一般的なビジネス・家庭用のパソコンには、GPUの機能を統合したCPUが用いられており、物理的に独立したGPUを搭載しているのは、3Dのゲームを高速にプレイするためのゲーミングPCなどに限られています。
3-5 「IEEE」と「IETF」
略称が似ていますが、「IEEE」と「IETF」は異なる団体です。
読み間違いやすい用語の項でも紹介したIEEEは「Institute of Electrical and Electronics Engineers」の略称で、アメリカに本部が置かれていることもあり、日本語では「米国電気電子学会」と呼ばれています。電気電子分野を中心とした幅広い分野の研究者・学生が所属しています。無線LANの規格「IEEE 802.11」として目にすることが多いでしょう。無線LANの規格からもわかるように、ハードウェア寄りの機関と言えます。
一方の「IETF」は「Internet Engineering Task Force」の略称で、日本語では「インターネット技術特別調査委員会」と呼ばれるインターネット関連の技術(TCP/IP)の標準化団体です。インターネットのプロトコルに関わっていることからもわかるように、どちらかと言えばソフトウェア寄りの機関です。
3-6 「RBAC」と「ABAC」
「RBAC」は、「Role Based Access Control」の略語で、ユーザーの役割(ロール)に基づいてアクセス制御を行うセキュリティ手法のことを言います。
「ABAC」は「Attribute Based Access Control」の略語で、ユーザーの属性に基づいてアクセス制御を行うセキュリティ手法のことです。
綴りが一文字しか違いませんが、意味が違うため、注意が必要です。
3-7 「PDM」と「PdM」
「PDM」は「Product Data Management」の略で、「製品情報データ管理(システム)」のことを言います。設計技術に関する情報を一元管理するものです。
「PdM」は「Product Manager(プロダクトマネージャー)」の略です。「PM」と記されることが多いようですが、一部の記事で「PDM」と表記されることもあります。こちらは、プロダクト全体の管理責任者を指します。製品やサービスのコンセプトを定めて、プロダクトを作り上げるために、企画や開発工程を推し進める役割のことです。
このように異なる意味ですが、表記により間違えられてしまうことがあるようです。余談ですが、「PM」だと「Project Manager(プロジェクトマネージャー)」の略称としても使われるため、「PdM」「PjM」と明確に呼び分けているところもあるようです。
まとめ
ITの世界では、常に新しい言葉や言葉の意味が登場しています。私たち日本人の場合、英文字略語はついつい見逃してしまい、意味を取り違えてしまったり、間違えてしまったりすることがあるようです。
とはいえ、業務で使用する用語も多いと思うので、見慣れない言葉や略語、知らない単語や使い方を見聞きしたら、検索して確認してみることを心がけましょう。