ソフトウェア開発においても品質管理(Quality Control)は欠かせません。品質管理とは、品質に関するデータを収集・分析して課題を特定し、その解決に向けて継続的に品質改善を図る活動のことです。
そして、品質管理を効果的・効率的に実施するために用いられるのが、QCツールである「新QC七つ道具(新QC7つ道具)」です。
新QC七つ道具にはどのような手法があるのか、「QC七つ道具」とどう違うのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「新QC七つ道具」の各手法と使い方、「QC七つ道具」との違いを解説していきます。
- もくじ
1.新QC七つ道具とは
「新QC七つ道具」とは、品質管理における問題の分析や解決策の検討に用いられる七つの手法を体系化したものです。
英語で"New seven tools for QC"や"New 7 QC Tools"と呼ばれるため、「N7」と略されることもあります。
新QC七つ道具の特徴は、言語データを図や表にまとめて「定性的」に分析することを得意としている点です。
言葉や行動といった、数値化が難しいデータを視覚的に整理できるため、問題の本質や事象ごとの関係性などを明らかにする際の助けとなります。
なお、そもそも品質管理とは何かについて詳しくは、次の記事を参考にしてください。
QC七つ道具との違い
「新QC七つ道具」と、「QC七つ道具」との主な違いは、分析方法が「定性的」か「定量的」か、という点です。
「QC七つ道具」は、具体的な数値によって定量的な分析を行います。それに対して「新QC七つ道具」は、言語データを図や表といった形で整理することで、定性的な分析を行うツールが大半です。
数値データの分析に強みを持つ「QC七つ道具」は従来、製造現場を中心に活用されてきました。しかし、「QC七つ道具」は数値化できないデータに対しては活用が困難です。そこで、言語データを整理して分析する「新QC七つ道具」が体系化されました。
「新QC七つ道具」を使えば言語データを整理して分析でき、「QC七つ道具」ではカバーできない問題の分析が可能です。
これらのQCツールを組み合わせることで、業種を問わず製造・企画・設計・営業など、あらゆるシーンの問題分析が可能となりました。
2.新QC七つ道具の各手法と使い方
新QC七つ道具は、抽象的な製品品質や不具合の原因といった定性的な要素を取り扱う場合に有効な方法です。新QC七つ道具には、具体的に以下の7つの手法があります。
- 親和図法
- 連関図法
- 系統図法
- マトリックス図法
- アロー・ダイアグラム法
- PDPC法
- マトリックスデータ解析法
全7つのツールを一つ一つ見ていきましょう。
2-1 親和図法
親和図法は、バラバラな事柄を親和性にもとづきグループ化して整理する手法です。
複数の事柄が絡み合った複雑な問題を整理することで、その全体像を捉えやすくなります。情報量が多く煩雑で、本質的な問題が見えづらいときに有効です。
親和図法を用いる際の大まかな流れは、次の通りです。
- 考えられる事柄を1要素ずつカードに記入する
- カードを親和性が高いもの同士で分類する
- 親和性が高い各グループにラベル(共通点を言語化したもの)を付ける
ソフトウェア開発プロジェクトでは、計画フェーズや、プロジェクト中に発生した不具合の分析において使用するのが効果的と言えます。例えば、不具合データを分析する際、個々の不具合事例をグループ化することにより、不具合の傾向や種類を把握できます。
2-2 連関図法
連関図法は、問題点の相互関係を探り、「原因―結果」もしくは「目的―手段」の関係に整理して、相互の関連性を系統的に整理・発見していく手法です。
「原因と結果」や「目的と手段」の関係性を深掘りすることで、複雑な因果関係を可視化できます。
連関図法を用いる際の大まかな流れは、次の通りです。
- 中央に解決したい課題や、達成したい目的を記載する
- 課題の原因や、目的の手段を洗い出して周囲に記載する
- 「原因→課題」「手段→目的」といった形式で因果関係を矢印でつなぐ
- それぞれの原因や手段に対して2.と3.を繰り返す
ソフトウェア開発プロジェクトでは、親和図と同様、計画フェーズ、あるいはプロジェクト中に発生した不具合の分析などで用いられます。
親和図と連関図はセットで使われることが多いです。要素間あるいはグループ間の相互関連を矢印で結ぶことで、不具合の原因抽出や関連する不具合の発見がしやすくなります。
2-3 系統図法
系統図法は、目的の達成に向けて考えうる手段をツリー上に並べて系統的に整理し、最適な手段を探る手法です。
プロジェクトを階層的に整理する「WBS (Work Breakdown Structure)」も、目的を細かく手段に分解していく点で、系統図法と似ています。
系統図法を用いる際の大まかな流れは、次のとおりです。
- 左端に基本目的を記載する
- 基本目的を実現するための第1次手段を洗い出し、右側へツリー状に記載する
- 第1次手段を実現するための第2次手段を洗い出し、右側へツリー状に記載する
- 各手段に対する実現手段を繰り返しツリー状に記載していく
このように整理することで、手段に対応する選択肢が明確となり、最適なプランを選びやすくなります。
ソフトウェア開発プロジェクトでは、計画、準備フェーズで有効です。プロジェクトの準備に際して何が必要か、それに対する準備は何が必要か、といった要領で準備とそれに必要な物資や作業を割り出せます。
2-4 マトリックス図法
マトリックス図法は、現象と要因などを列方向と行方向に分解し、その対応を多元的に把握する手法です。
「複数の評価対象」と「複数の評価項目」の対応関係を網羅的に評価したいときに有効と言えます。例えば、列方向に並べたリスクのそれぞれに対して、行方向に並べた影響度や発生確率などで評価する、といった使い方があります。
親和図法を用いる際の大まかな流れは、次のとおりです。
- 列方向に、評価対象を列挙する
- 行方向に、評価対象に対する評価項目を列挙する
- 各列と各行の交点に対して、それぞれ関係性などの評価を記載する
ソフトウェア開発プロジェクトでは、計画や準備フェーズから、テストや運用フェーズまで幅広く用いられます。プロジェクト準備の状況をマトリックスでチェックしたり、各機能に対するテスト観点の対応を漏れ抜けなく整理したりするときに効果的です。
2-5 アロー・ダイアグラム法
アロー・ダイアグラム法は、プロジェクトの作業項目を前後関係に沿って整理し、作業工程や日程計画を可視化する手法です。
「どの作業からどの作業へ移行するか」「その移行に何日かかるか」などが明確となり、日程計画を立てやすくなります。
アロー・ダイアグラム法において、最も多くの日数がかかる経路を「クリティカルパス」と呼びます。クリティカルパスはプロジェクト全体の日程に大きく影響するため、重点的に管理していきます。
アロー・ダイアグラム法を用いる際の大まかな流れは、次の通りです。
- プロジェクトの達成に必要な作業項目・所要時間を表などで整理する
- 各作業項目を前後関係に沿って並べ、実線の矢印で表現する
- 各矢印に作業項目名と所要時間を書き添える
- 各矢印の間に結合点(作業の区切り)を丸や四角などで記載する
- ダミー作業があれば、点線の矢印で表現する
「ダミー作業」とは、間接的な前後関係を表現するための仮作業を指します。たとえば「料理の盛り付け」と「食器の用意」は、直接的な前後関係はありませんが、先に食器の用意が完了していることが前提です。このような場合、「食器の用意」から「料理の盛り付け」へのダミー作業を設定することで、間接的な前後関係を表現できます。
ソフトウェア開発プロジェクトでは、開発の各工程における日程計画を立てる際に活用します。
まずWBS(プロジェクトにおけるタスクを細分化し一覧表で示す手法)によって工程ごとに必要な作業を列挙し、それぞれの工程に必要な日程をアロー・ダイアグラムで図示します。それによってプロジェクトの進捗管理がやりやすくなります。
そしてこの際、すべての矢印をつないだときに現れる、それ以上圧縮できない最長の工程経路であるクリティカルパスを割り出すことにより、不測の事態が起こった際の対策を考えることにも役立ちます。
2-6 PDPC法
PDPC法は、トラブルが起こった際の対応策や処理手順などをフローチャート形式でまとめる手法です。
PDPCは「Process Decision Program Chart」の略語で、日本語では「過程決定計画図」と言われています。
トラブルが「発生した場合」と「しなかった場合」の分岐を考慮し、各状況に応じた計画を立てるのが特徴です。目的を達成したり、問題解決を考えたりする際に、万が一のトラブルが発生した場合を想定した計画を立てられます。
PDPC法を用いる際の大まかな流れは、次のとおりです。
- スタート・ゴールを決める
- 最短ルート(何も問題が発生しないケース)をフローチャート形式で表現する
- 各プロセスにおいて、発生しうる問題がないか精査する
- 問題が想定される箇所は分岐させ、問題が起きた場合のプロセスも記載する
ソフトウェア開発プロジェクトでは計画フェーズにおける、想定されるリスクとその対応策を考えたり、計画したりする時に有効です。
緊急事態が起こった際の必要な作業を割り出し、その処理の手順や連絡経路(担当責任者)などについてPDPC法を用いて検討・計画できます。
2-7 マトリックスデータ解析法
マトリックスデータ解析法は、前述のマトリックス図法により行列で表現した数値データを、2次元の平面に展開し、その相関関係を図示する手法です。
これにより、得られたデータの分布や相関関係を把握でき、問題の糸口や新たな発見を獲得できます。新QC七つ道具の中では唯一、「定量的」な要素を軸にして分析を行う手法となっています。
マトリックスデータ解析法を用いる際の大まかな流れは、次のとおりです。前提として、マトリックス図法によるデータの整理が完了しているものとします。
- 2次元平面の縦軸と横軸を決める
- マトリックス図法の各データを2次元平面に展開する
- データの分布や相関関係を分析する
ソフトウェア開発プロジェクトでは、得られたテスト結果をまとめて分析報告するフェーズにおいて有効です。
例えば、テストケースにおいて、テスト項目数と検出されたバグの発見数の相関関係を取ることにより、テストのコストパフォーマンスを調査できます。
3.新QC七つ道具を活用するメリット
新QC七つ道具を使いこなすには学習コストが必要ですが、活用のメリットは大きいです。新QC七つ道具を活用するメリットは、主に次の2つです。
3-1 数値化が難しい問題に対処できる
新QC七つ道具を活用することで、数値化が難しい問題にも対処できます。前述の通り、新QC七つ道具は定性的な問題の分析を得意としています。
言語データを各手法によって図や表にすることで、全体像や問題の本質が見えやすくなるでしょう。
IT業界や製造業界に限らず、言語データが多いさまざまな業界の問題分析に役立ちます。
3-2 チーム内でのコミュニケーションが円滑になる
新QC七つ道具の活用は、チーム内でのコミュニケーションを円滑にします。
言語データは主観的な側面が強く、数値データと比べて認識違いが発生しやすいです。
しかし、図や表で可視化すれば全体像や関係性が明確になり、チーム内で共通認識を持ちやすくなります。
これにより、チームメンバーとの議論がスムーズになるでしょう。
4.新QC七つ道具を有効活用するためのポイント
新QC七つ道具は有用なツールですが、正しく活用しなければ十分な効果を発揮しません。
新QC七つ道具を有効活用するために、次のポイント2つを押さえておきましょう。
4-1 目的に合ったQCツールを選定する
新QC七つ道具を活用する目的に合ったQCツールを選定しましょう。
各QCツールの強みや用途は異なり、達成したい目的によって適したQCツールは変わってきます。
たとえば、目的達成に向けた手段を模索したい場合は系統図法が効果的ですが、因果関係を解明したい場合は連関図法のほうが適しています。
目的に合ったQCツールを選べるように、各QCツールについて正しく理解しましょう。
4-2 チーム全体で共有する
新QC七つ道具によって可視化した図や表などは、チーム全体で共有しましょう。
1人の管理者だけが把握するのではなく、チーム全体が共通認識を持つことが重要です。
それにより、各メンバーに品質管理の当事者意識が生まれ、チーム全体の活性化につながります。
また、チーム全体を巻き込むことで議論が活発になり、より適した解決策を検討しやすくなります。
まとめ
新QC七つ道具とはどのようなものなのか、それぞれ見てきました。まとめると以下のとおりです。
親和図法 | バラバラな事柄を親和性にもとづきグループ化して整理する手法 |
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連関図法 | 問題点の相互の関係を探り、「原因―結果」もしくは「目的―手段」の関係に整理して、相互の要素の関連性を系統的に整理・発見していく手法 |
系統図法 | 目的の達成に向けて考えうる手段をツリー上に並べて系統的に整理し、最適な手段を探る手法 |
マトリックス図法 | 現象と要因などを列方向と行方向に分解し、その対応を多元的に把握する手法 |
アロー・ダイアグラム法 | プロジェクトの作業項目を前後関係に沿って整理し、作業工程や日程計画を可視化する手法 |
PDPC法 | 想定されるトラブルが起こった際の対応策や処理手順などをフローチャートの形にまとめる手法 |
マトリックスデータ解析法 | マトリックス図法により行列で表現した数値データを、2次元の平面に展開し、その相関関係を図示する手法 |
QCツールは、チームで活用し共有することがチームの活性化につながります。QCツールをうまく活用し、ソフトウェア品質を向上させていきましょう。