ソフトウェアを開発するアジャイル開発のフレームワークの一つである「スクラム」で、進行役として重要な役割を担うのが、スクラムマスターです。今回の記事では、スクラムマスターに求められるスキルと身につけ方をまとめました。
1.スクラムマスターに求められる5つのスキルとは?
アジャイル開発のフレームワークの一つである「スクラム」では「スクラムチーム」という単位で開発を行います。スクラムチームは、スクラムマスター1名、プロダクトオーナー1名、そして複数の開発者からなります。
スクラムマスターには、このスクラムチームがスムーズに作業を進めるために必要な作業を行うことが求められています。スクラムマスターが役割をはたすためには、以下の5つの「スキル」が必要とされています。
ティーチング(Teaching)
ティーチングは、プロジェクトの達成のために必要な技術や知識を開発者に伝える能力です。そのため、スクラムマスターにはプロジェクトを適切に理解していることが前提となります。
ファシリテーティング(Facilitating)
ファシリテーティングは、スクラムチームの活動を促進する能力です。たとえば、ミーティングの際には各メンバーの様子を把握し、情報共有を上手に進められるように気を配ります。
メンタリング(Mentoring)
メンタリングは、対話による気づきと助言によってメンバーの成長を促す能力です。これは世間一般の企業での、新人研修などで先輩社員がメンターとして新入社員をサポートする制度と似たようなものと言えます。メンバーがまだプロジェクトについてあまり知識がない場合のティーチングに対し、ある程度の知見を持ったメンバーが自発的な気づきに至れるように導くのがメンタリングです。
コーチング(Coaching)
コーチングは、メンバー自身が持つ正しい答えに気づいてもらえるようにサポートする能力です。どのように仕事を進めるかについて、明確に言語化できるようにします。
シチュエーショナリング(Situationing)
シチュエーショナリングは、スクラムチームという場の状況を判断する能力です。俗に言う「空気を読む」ことで、たとえばチームメンバー間の雰囲気が良くない場合はその原因を見極めて対応することで、チームの活動が円滑に進むように配慮します。
スクラムマスターには、これらのスキルを備えた上でチームに所属するさまざまな熟練度や専門性を持つメンバーをよく理解し、それぞれのスキルを使い分けることが求められています。そうすることで、チームの成果を最大化することを目指すのです。
2.スキルをどうやって身につける?
資格取得の受験勉強をして短期間で身につける
前述したスクラムマスターに必要なスキルは、どのようにすれば身につけることができるのでしょうか? 費用はかかりますが、スクラムマスターの資格の取得を目指すことで集中して学ぶことを検討しても良いでしょう。試験という目標を設定することは、スキル取得のモチベーションにもつながります。スクラムマスターの資格は、以下に紹介する3つが代表的だといわれています。
Scrum Alliance®が認定する資格
・CSM®(Certified ScrumMaster)
Scrum.Orgが認定する資格
PSM(Professional Scrum Master)
Scrum Inc.が認定する資格
・LSM(Licensed Scrum Master)
受験には費用や時間が必要となります。資料をよく読み、自分に合った資格の取得を目指すのが良いでしょう。上述の団体からオンラインで提供されている資料に目を通し、それらの団体が開催するイベントへ参加することで、よりスクラムの理解を深めるきっかけとなるでしょう。
セミナーや勉強会に参加して、スキルを磨いていく
最近は勉強会や読書会、輪読会、セミナーに参加してスキルを身につける人も多いようです。もちろん、スクラムマスターについては、セミナーも勉強会も盛んに開催されていますし、関連書籍の読書会、輪読会も積極的に開かれています。なかにはオンラインで開催されているものもあります。
IT系のイベント支援サイトや勉強会サイトで「スクラム」または「スクラムマスター」と検索してみると、自分に合った勉強会が見つかるかもしれません。
SNSなどで同じ志を持っている人と交流する
スクラムマスターを目指す方も、スクラムマスターの資格を得た後も学び続ける方も、一人で学ぶより同じ目標を持った方との交流があれば、学びもよりはかどると思います。スクラムマスター向けのコミュニティに参加したり、同じ志を持っている人とSNSで交流したりするのも良い学びや気づきに繋がっていくはずです。
3.良いスクラムマスターであるために
良いスクラムマスターを目指すために、どのようにしていくべきでしょうか? まず心得るべきは、スクラムマスターはスクラムチームにおける「上司」ではないということです。チームのメンバーとのコミュニケーションは上意下達ではなく、双方向であるべきです。スクラムチームのメンバーを支配するのではなく、メンバーにとってメリットのあることを行うことで、メンバーに「次もスクラムマスターと話してみよう」と思ってもらい、信頼を得るよう心がけるのが良いとされています。
なお、スクラムチームの構成やそれぞれの役割は、スクラム手法の創設者であるKen Schwaber氏とJeff Sutherland氏により『The Scrum Guide』にまとめられています。日本語訳もあるので、ぜひ参考にしてください。
スクラムチームは、所属する企業の社内体制や業務発注元との力関係によっては、トップダウンの命令系統のもとで、ときには困難な要求に直面することも想定できます。そのような場合にもスクラムマスターは組織とチームの両方に向き合い、チームのモチベーション維持と組織の要求を両立できるように調整役として振る舞う心構えと力量が求められます。
まとめ
スクラムマスターに求められる基本的なスキルには、ティーチング、ファシリテーティング、メンタリング、コーチング、シチュエーショナリングの5つがあります。これらを身につけた上で、スクラムチームのメンバーの能力を最大化していくのがスクラムマスターの役目です。また、プロダクトオーナーと良好な関係を築き、支援することも重要な任務の一つです。
目的を達成するために、具体的なノウハウが完備されているわけではなく、スクラムマスターごとに最適な方法があると言えます。より良いスクラムマスターを目指すなら、アジャイル開発やスクラム開発に関係するさまざまなコミュニティやイベント、勉強会に積極的に参加して貪欲に前進を続けていくことがポイントになるでしょう。