「Microsoft Zune(以下、Zune)」をご存じでしょうか? 2023年に公開された映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』に重要アイテムとして登場した音楽プレーヤーです......が、おそらく今、日本で使っている人はほとんどいないと思います。
Zuneは、2009年にアメリカ「Time」誌の『過去10年の技術的10大失策』に選ばれました。これを聞いて「もしかして迷作?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。実はこの"10大"にはMicrosoft製品では『Windows Vista』も選ばれています。
そこで今回は、Microsoftが創った斬新すぎたプロダクツのいくつかを懐かしんでみたいと思います。
- もくじ
1.「Microsoft Zune」とは?
1-1 伝説の「Zune」
『Microsoft Zune(以下、Zune)』は、Microsoftが2006年11月に発売を開始した携帯音楽プレーヤーとそれに関連するブランドをひとまとめにした名称です。
アップル(Apple)の「iPod」の対抗商品として登場しましたが、2011年10月に開発中止と生産終了が発表されました。アメリカとカナダで発売され、日本市場で発売されることはかったため、「ニュースやガジェットメディアでしか見たことがない」「知らない」という人も多いと思います。iPodの牙城を崩すことができずに市場を去った......という印象が強い製品でした。
そんなZuneが最近一気に注目を集めたのは、冒頭にも紹介した、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に目立つ形で登場したからです。とくに『VOLUME 3』では重要アイテムとして登場したことから「何あれ?」と話題になりました。公開前からジェームズガン監督が「Zuneが非常に重要な役割になる」と語ったことで事前から一部ではネタになっていたこともあり、おそらくコレクション、またはオブジェとして求められ、オークションなどでも人気になっていました。
これにはMicrosoftもいち早く反応。なんと、映画の公開を記念して、アメリカ在住の18歳以上を対象にZuneプレゼントキャンペーンを実施しました。ただし「We have no idea if it works.(動くかどうかわからない)」そうです。
Microsoftはほぼ同時期に「Reviving a Microsoft Zune in 2023」と題するオフィシャル動画をYouTubeに投稿しています。Microsoftも近年はノリがいいですね。
1-2 Zuneの仕組み
Zuneのハードは、第1世代は東芝が製造を請け負っていて、同社の「gigabeat」に似ているといわれたこともあったそうです(Sシリーズ等)。第2世代はシンガポールのフレクトロニクス社が製造しています。
ラインナップをあらためて調べてみると、2006年11月に登場した「Zune 30」、2007年のHDDを使う「Zune 80」「Zune 120」、フラッシュメモリを使う「Zune 4」「Zune 8」「Zune 16」、2009年発表の「Zune HD」と充実しています。
「Zune Marketplace」というオンラインストアを通じて音楽やビデオが購入でき、定額サービス「Zune Pass」も展開されていました。ラジオを内蔵しているのがiPodにはない特徴で、日本の周波数域にも対応していたことからZuneの日本登場を予測する声もありました。
また、「Zune boards」でゲームやアプリケーションをインストールすることもできました。テトリスなどが人気だったそうです。無線LANを使ってPCと同期をとる機能やドック(オプション)を使うと、HDMIで出力する機能もあり、先進的な、ある意味"尖った"一面も持っていました。
1-3 なぜ撤退したのか?
上で述べてきたように非常に充実したラインナップ、サービスを展開していたZuneですが、残念ながら2011年10月に開発中止となってしまいました。資料等によると、Zuneは一時、ポータブルオーディオプレーヤー市場で第2位(10%)となったのですが、一言で雑にまとめてしまえば「iPod」と「iTunes」に負けてしまったということになるのだと思います。これはなぜでしょうか?
よくいわれているのが、アメリカ、カナダ以外での利用に制限があったこと、対応言語が少ないこと、Bluetoothに非対応だったこと等々......です。当時、Bluetoothはあまり一般的ではなかった印象でしたが、一部のマニアには使われていました。
口の悪い人は「iTunesに非対応だったから」と話すこともあります。当時は、現在のように音楽をサブスクリプションサービスで聞くのは一般的ではなく、オンラインでアルバムや曲単位で購入したり、自分のCDをリッピング(音楽を取り込む)したりしてデータ化して使用することが多く、iTunesのようなアプリケーションで管理し、これをiPod等のデバイスに転送して使う人が多かったと思います。
Zuneのような後発がユーザーを"奪う"には、自社の管理アプリ上にそこからデータをコンバートするか移行させる必要があったわけです。
これは多くの楽曲を保有する課金の多いヘビーユーザーほど手間がかかる作業です。機能やサービスが充実していても「手間をかけてでも移行したい」と思わせる"何か"がなければトップは奪えない、そんな時期だったのだと思います。
時代の流れとともに音楽サブスクリプションサービスの台頭などもあり、2022年にはiPod(iPod touch)もマーケットから姿を消すことになりました。
2.Microsoft「電話」の不思議な運命
Microsoftは以前から携帯電話分野には積極的に挑戦をしていました。ここで登場する「Microsoft KIN」や「Windows Phone」は高機能で充実したサービスを展開しながら、歴史の表舞台から姿を消しています。
2-1 コンセプトが先行しすぎた?「Microsoft KIN」
若者向けスマホとして華々しく登場
2010年5月に発売されたMicrosoftのスマートフォンが「Microsoft KIN(以下、KIN)」です。Microsoftとシャープが共同開発しました。KINのメインターゲット層は15歳から30歳までの男女。SNSの利用に特化したUI(User Interface)を備えているのが特徴でした。
「KIN Loop」と呼ばれる待ち受け画面に、FacebookやMySpace、Twitter(当時)の情報を自動更新する仕組みを整えていました。
また、クラウドサービス「KIN Studio」を使って、自動的に写真や動画をはじめとするデータを自動バックアップする機能も搭載されていました。くわえて、Zuneの各種機能を利用できるようになると発表されていました。
本体は「KIN ONE」と「KIN TWO」があり、スライド引き出し式のキーボードを備え、さらにタッチ操作も可能と至れり尽くせり。このように概観すると、KINの機能やサービスはかなり充実しているように見えます。
しかし、「Windows Phoneに統合する」等との理由から2か月あまりで打ち切りとなってしまいました。期間が短すぎたせいか、日本では展開されませんでした。
なぜ姿を消した?
あまりの短期間での打ち切りで、当時もかなり報道は過熱しました。最も大きな理由と報じられていたのが、Microsoftの組織再編の影響だったと思います。
他の報道で指摘されていたことは、いくつかに集約できました。
- 携帯電話としての使用料金が高かった
本体価格は抑えられていましたが、毎月の使用料金の合計が70~90ドルと高額でした。 - 機能は豊富だが、動作が遅かった
打ち切りからしばらくして、内部テストの様子などが一部報道機関で"暴露"されました。それによると「動作が遅い」「タッチなどへの反応が不正確」といった問題があったとされています。
実際のところ、たった2か月で姿を消したので、発売前から待っていた人以外にとっては検討中に消えてしまったスマートフォンということになります。今でも稀にKINのコンセプトは優れていたと評されることもありますが、実際に使用した人はかなり少ないと思います。
2-2 復活を望む声も多い「Windows Phone」
熱いファンが存在するモバイルOS
「Windows Phone」は、Microsoftが「Windows Mobile」の後継として登場したスマートフォン向けOS(オペレーティングシステム)です。iOS、Androidに続く、第3のスマホOSとして注目を集めました。Windows Mobileが企業向けだったのに対し、一般向けの展開が追加されたのが特徴で、Windows Phoneはその後継ですが1から開発され、互換性はないと報じられています。2010年9月に完成しました。
開発中は「Windows Mobile 7」と呼ばれ、「Windows Phone 7」として発売されています。Windows Phoneでは、Zune等で使用された「Modern UI」が採用されていました。Modern UIは文字を基本にした単色デザインがベースで視認性が高く、iPhoneやAndroidよりも1画面での情報量が多いとされていましたが、操作性が他のOSと大きく異なっていて拒絶感を示すユーザーもいたようです。
Windows Phoneは、スマートフォン用のOSとしては世界で初めてフリック入力を採用したとされ、Microsoft Office製品との高い親和性もあって一部で高い支持を集めていました。日本では「メトロ・デザインシステム」等が評価され、2011年度のグッドデザイン賞(ソフトウエア部門)を受賞しています。
なぜ姿を消すことに?
しかしながら、2019年12月、Windows Phoneの直接後継である「Windows 10 Mobile」のサポートが終了しました。後継の発表もありませんでした。
これはスマートフォンOS市場におけるシェアが1%未満だったからといわれています。それ以前、Microsoft創設者のビルゲイツ氏がAndroidのスマートフォンを利用していることが報じられたこともありました。
最終版のWindows 10 Mobileでは、WindowsやMicrosoft Officeとの親和性が高められており、利便性も高く、一部では熱狂的に支持されていましたが、iOSやAndroidのシェアに迫ることはできませんでした。Windows Phone(Windows 10 Mobile)は、着々と対応機種を増やし、機能を充実させていきましたが、その時点で十分普及していたiOSとAndroidのユーザーを振り向かせ、乗り換えさせるだけの"何か"が足りなかったのでしょう。熱い支持も見られただけに残念でした。
Windowsとの親和性の高さは大きな魅力でしたが、いわゆるWindowsエコシステムはPCで完結していて、さらにWindows Phoneを選ぶ必要がなかったという指摘もありました。
3.Windowsにも「微妙」バージョンがあった?
パソコン用のOSとして定番であり、約90%のシェアを持つとされるWindowsですが、常に盤石だったわけではありません。中には斬新すぎるコンセプトがユーザーから不評だった微妙なバージョンが存在しています。
3-1 「16bit」版の集大成ながら読み方で迷った「Windows Me」
当時、「Windows Me」は「エムイー」と呼べばいいのか「ミー」なのか迷った方もいるそうです(公式には「ミー」と思われます)。「Microsoft Windows Millennium Edition」の略が「Windows Me」で2000年9月に発売されました。
「Windows 1」から始まって「Windows 2」系統、大ヒットの3.1を含む「Windows 3」系統、有名な「Windows 95」、「Windows 98」と、長年続いた16bit版Windowsの集大成として、そして、最終バージョンとして登場したのがWindows Meです。ラストバージョンとして、マルチメディア機能やUSBメモリなど大容量メディアといった外部機器のサポートを充実させています。
しかし、16bit最終版として、16bit版での課題を解決し尽くしてはいなかったことと、発表から約1年後に後に名作とされる「Windows XP Home Edition」が発売されたことで、実質的に終了となり、短命バージョンとなりました。動作が不安定だった「Windows 95」「Windows 98」系統に機能を追加したことで動作がさらに不安定になったと評されています。
しかし、現在のWindowsに比べると軽く、サイズも小さく、インストールがしやすいといった特徴があることから、仮想環境にインストールして、昔のゲームをプレイしたり、かなり古い中古パソコンのOSとして使用したりする事例が最近でも多いようです(もし、このようにして利用する場合は、セキュリティ上の懸念から、必ずスタンドアローンで使用するようにしてください)。
3-2 新たな挑戦をしたが重いといわれた「Windows Vista」
「Windows Vista」は2007年1月に発売され、2017年4月に延長サポートが終了しました。それまでのWindowsシリーズに対し、よりセキュリティ機能とグラフィック機能を強化しているのが特長です。「Windows Areo」など、それまでにない新機能が数多く搭載されています。
セキュリティを強化したり、グラフィック機能を充実させたりした攻めたバージョンでしたが、それもあって、快適な動作のためには多くのメモリが必要でした。市場的にはまだまだメモリなどが高価だったこともあり、快適にWindows Vistaが使用できるパソコンはそれほど多くはなかったと推測できます。そのため「重い」「使えない」という不名誉な評価をされることになりました。
また、インターフェースが変化したことで、以前のWindows XPの方が使いやすかったという評価もありました。一気にインターフェースを変化させてしまうと、ユーザーにそっぽを向かれてしまうのでしょう。ある意味、前作Windows XPの評価が高すぎて、それと比べられてしまったために不評となったという可哀そうな一面もあったと思います。
3-3 攻めまくってソッポを向かれてしまった「Windows 8」
Windows 8は2012年8月にリリースされた、Vista以上に"攻めた"バージョンでした。Microsoftが力を入れている「Metro UI」を採用し、PCとタブレットの橋渡しをすることをミッションのひとつとしています。Microsoftは2012年6月にPCとタブレットのハイブリッドデバイス「Microsoft Surface」を発売するなどして、大勝負に打って出たのです。
しかし、市場の反応は鈍く、Microsoftは軌道修正を余儀なくされ、2013年10月には仕様を変更した「Windows 8.1」を投入してようやく評価を回復させました。
Windows 8が微妙なバージョンとされる理由の一つはWindowsのデスクトップにタブレット風のタッチ操作などのインターフェースを取り入れすぎたことで、これまで使い慣れた「スタートメニュー」が変わりユーザーに嫌われてしまったことです。
その革新性についていこうにも、当時、タッチ操作可能なディスプレイを所有している人は多くなかったと思います。つまり、ユーザーをある意味、置き去りにしていたともいえます。その結果、Windows 8は短命に終わることになってしまいました。
まとめ
冒頭でご紹介した、アメリカ「Time」誌が2009年に選んだ『過去10年の技術的10大失策』には、Microsoft製品ではZuneとWindows Vistaが選ばれましたが、同時に、今の目からすると意外な『YouTube』も選出されています。ここがポイントかもしれません。
製品や技術の評価は「歌は世につれ世は歌につれ」ではないですが、当時の世相や売れ行き、人々の感覚、感情の影響を受けているものです。その辺りを踏まえて、いろいろ楽しみ、懐かしんでいきたいものですね。