2023年8月、EU(欧州連合)の「デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)」の適用が一部の大規模なプラットフォームに対して開始されました。そもそも「デジタルサービス法」とは何か、ニュースを見てもピンと来ていなかった方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は「デジタルサービス法(DSA)」の概要と日本への影響についてレポートします。
- もくじ
1.「デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)」とは?
1-1 デジタルサービス法の概要
デジタルサービス法(Digital Services Act:以下、DSA)とは、大規模プラットフォームなど、ネット上のサービスで、フェイクニュースなど、違法なコンテンツが掲載された場合の責任のあり方や、コンテンツなどで紛争が発生した場合の様々な取り扱い方法等を定めた規則です。主な目的は、ネットサービスを適切に機能させて、消費者の基本的権利を保護する、適切なオンライン環境を維持することにあります。
2023年8月に、EU(欧州連合)の「デジタルサービス法(DSA)」が19の大規模なプラットフォームに対して適用され、メディアでも大きく報じられました。違反すると、最大で世界中のマーケットにおける年間売上高の6%もの制裁金が科されるだけに注目を集めました。
対象となるのは、ISP等の仲介サービス、ホスティングサービス、オンラインのプラットフォーム(オンラインマーケットプレイス、アプリストア、SNS等)と大規模オンラインプラットフォームを提供する事業者とされています。
まず、2023年8月に対象となった19の大規模プラットフォームは、以下のページに掲載されています。Google、YouTubeやFacebook、TikTok、Twitter(現在はX)など、誰もが知る巨大サービスが並びます。
2024年2月17日以降、DSAは全面的に適用されます。DSAはEUの外に所在している事業者でも、EU内の消費者に仲介サービスを提供するあらゆる事業者に適用されるようになります。そのため、EU圏で仲介デジタルサービスを提供する日本企業もDSAを遵守する必要がありそうです。
1-2 なぜ、作られることになったのか?
デジタルサービス法(DSA)が作られることになったのは、さまざまな形式で膨大なデータがアップロードされる中で、オンライン取引を適切で安全に行えるようにするためです。
EUは、2000年7月に「電子商取引指令」を制定し、情報社会サービスがEU全域で展開されることを計画していましたが、技術の進化によるインターネット環境やオンラインプラットフォーム環境の変化に対応することが難しくなってきたとされます
ビッグテック(GAFA、またはGAFAM)のような巨大プラットフォーマーが次々に登場し、ネットの利用が変容したことや、新型コロナウィルス感染症の影響もあり、非対面の商取引(オンライン販売など)の割合が国や地域を問わず爆発的に増加したことも背景にあります。
結果的に、大規模プラットフォームにはさまざまな形式のデータが膨大にアップロードされるようになりました。そのほとんどは一般的なものですが、一部には、暴力やポルノなど不適切なものや、AIなどを用いて生成された精巧なフェイクニュースも含まれます。
そのため、オンライン取引をより適切で安全なものとするため、偽情報拡散防止など義務づけたDSAが登場することになったのです。2024年2月からは巨大IT以外にもDSAが適用されます。サービス提供企業は違法な商品や偽情報を削除することが義務になります。また、消費者の行動を解析して、検索結果や広告の表示に使用するアルゴリズムを開示することも求められるようになります。
1-3 2024年以降の見通し
DSAには、EU圏内の消費者を保護して、企業の責任を明確化する目的があるので、今後、EU圏外にあるプラットフォーマーにも影響を与える可能性があると指摘されています。どのくらい影響を及ぼすのか、今後に注目が集まっています。また、多くの大規模プラットフォームはDSAへの対応を進めていますが、Amazonは指定が不当として異議を申し立てました。対象となるプラットフォームや規則の内容等々について、今後も議論が続きそうです。
DSAが適用されることで、例えば、ネット上でよく語られていた、"噂"のひとつであるシャドウバン(予告なく投稿等の表示をさせなくしたり、順位を下げたりする対応)が違法化されたり、レコメンドの広告等について情報開示を求められるようになります。
2.デジタルサービス法の日本への影響は?
2-1 求められる規約等のアップデート
DSAは、デジタルサービスを規制する法で、他にもAI規制法案等もあるため、日本企業のEUにおける取引や日本の政策等にも影響を与える可能性があります。展開によっては、日本政府もDSAに準拠した法制度や政策を検討するかもしれません。
これは、インターネットは国境を越えて繋がっているためです。DSAは事業者の住所に関係なく、EU域内で提供される仲介サービスに適用されます。そのため、国際的に展開する日本のデジタルサービス提供会社は、DSAに関連した利用規約を見直し、アップデートを行う必要がありそうです。他の具体的な影響は、まだ明確ではありませんが、今後、注目していく必要があります。
2-2 デジタル市場の世界的な変化のきっかけに?
DSAの目的のひとつは、EUのデジタルサービスのルールを世界に広めることとされています。そのため、日本や他の国々も無関係ではいられないところです。オンラインサービスはグローバルに展開されるので、DSAをきっかけに、世界的にルールの見直しが行われるかもしれません。
そのため、日本企業にもDSAの影響が出る可能性は高いといえそうです。EU圏でオンラインサービスを展開するなら、DSAに従って、コンテンツ・モデレーション(管理、削除、苦情処理等)をして、コンテンツ責任を持ち、問題があれば、当局からの命令に従う必要があります。
DSAは、今後、EU加盟国や関連機関、関係者、大規模プラットフォーマーとの協議で変化していく可能性があり、世界中のオンラインサービスに大きな影響を与えると思われます。デジタルサービスでビジネスを展開する日本企業も、今から対策を検討する必要があるでしょう。
2-3 日本のデジタル経済にはどう影響する?
日本のデジタル経済にもDSAは影響を与えそうです。ここまで述べてきたように、日本のプラットフォーマーも利用規約やルール、運営体制を変更する必要がいずれ出てきます。EUの各機関との協力体制を整えたりするには、時間やコストがかかる上に、「言語の壁」を超える工夫も重要になってきます。
しかし、いち早くその体制を整えることができれば、EU市場での競争力の向上が期待できるため、チャンスと捉えることもできます。
3.個人情報保護とのかかわり
3-1 データ取得とプライバシーの関係
DSAは、EUのデジタル戦略の一環でもあります。DSAによってオンラインの基本的な権利を保護し、フェイクニュースなど偽情報や違法コンテンツの拡散を防ぎ、安全なオンライン環境を構築する狙いがあります。そのため、DSAは、データ取得やプライバシーとも密接に関係しています。
そのため、DSAでは、データとして取得したプライバシー情報(特別カテゴリー情報)を用いたターゲティング広告、未成年者に対するターゲティング広告を禁止しています。
3-2 日本の個人情報保護法への影響
DSAと日本の個人情報保護法との関係も気になるところです。日本の個人情報保護法は、個人情報保護とデータ流通の両立と強化、国際的な制度との調和を目的に2023年4月に改正されました。いずれもプライバシーとデータの利活用のバランスを図ることを目指していますが、具体的な規定や適用範囲には違いがあります。
例えば、DSAでは、上記のように、プロファイリングに基づく広告や未成年者に対する同様の広告を禁止していますが、日本の個人情報保護法では、これらについて明確な規制は今のところありません。国際的な制度との調和を図るとすると、何らかの対応が求められることになると考えられます。
日本のデジタルサービス事業者は、DSAと日本の個人情報保護法の両方に適合するようにサービスを整えたり、データの取得などについても考慮したりする必要がありそうです。
まとめ
デジタルサービス法(DSA)とは、大規模プラットフォームなどインターネット上のサービスにおいて、フェイクニュース等、違法なコンテンツが掲載された場合の責任のあり方や、コンテンツなどで紛争が発生した場合の様々な取り扱い方法等を定めた規則です。
DSAは、EUに居住する消費者向けのあらゆるオンラインサービスに適用されます。オンラインでビジネスをする日本企業が、EU圏内の消費者ユーザーにサービスを提供する場合には、DSAを守らなければなりません。それもあり、無視できない存在といえるでしょう。
今後、DSAの影響で消費者の心理やニーズが変わるとの予測もあります。DSAを巡る流れからは目が離せない状況が続くといえって良さそうです。