「SRE(サイト信頼性エンジニアリング)」は近年、システム運用において注目されているアプローチです。
IT業界では、SREエンジニアが多くの場面で活躍しており、その重要性はますます高まっています。
こうした状況を背景に、「システム運用を見直したい」「SREエンジニアに興味がある」という方も多いのではないでしょうか。
今回はSREとは何か、その特徴やメリットなどを紹介します。SREのプロセスやツールも紹介しているので、SREの導入を考えている方はぜひ参考にしてください。
- もくじ
1. SREとはGoogle社が提唱するアプローチ
SRE(Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング)とは、システム運用の信頼性に重きを置くアプローチのことです。
具体的には、システム管理やアプリケーション監視などのITインフラの自動化、Webサイトやサービスの最適な運用・自動化・効率化といった作業を含みます。
2004年に、Google社がSREを実践する専門チームを立ち上げ、徐々に体系化していきました。大手IT企業であるGoogle社が提唱していることから、グローバルに注目され、広く採用されています。
なお、SREの日本語名称には「サイト」という言葉が含まれていますが、Webサイトだけでなく幅広いシステムやサービスに適用できるアプローチです。まずはSREの基本事項として、特徴や関連職種、関連用語との違いを整理しましょう。
1-1 SREの特徴
SREの特徴は、主に次の3つです。
開発と運用の統合
SREは、「DevOps」と呼ばれるアプローチの実践を目的に体系化されました。DevOpsとは、開発(Development)と運用(Operation)の統合を図るアプローチのことです。SREではDevOpsの考え方に従い、開発チームと運用チームの密接な連携を図ります。開発・運用が相互に連携する体制を構築することで、システムの信頼性・安定性を高めます。
信頼性重視
SREはシステム運用における信頼性を重視します。たとえば、SLO (サービスレベルの目標)などで信頼性を可視化し、継続的にモニタリングするのが基本です。また、自動化の推進により人的ミスを抑制し、信頼性の低下を防止します。そのため、信頼性の高いシステム運用を目指す企業に適しているといえるでしょう。
運用の自動化
SREの具体的な実現にあたっては、ツールを用いてシステム運用を自動化します。これは、システム運用の信頼性を維持するうえでも、開発と運用の連携を強化するうえでも重要な施策です。
1-2 SREエンジニアとは
「SREエンジニア」とは、SREを実践することに特化したエンジニアのことです。SREの考え方を深く理解し、企業のシステム運用においてSREの適用を促進します。
具体的な業務内容は職場によって異なりますが、たとえばシステム運用に関する自動化ツールの導入と管理、開発や運用の文化的な統合などのサポートが代表的です。なお、SREエンジニアを意味して単に「SRE」と呼ぶこともあります。
1-3 SREとDevOpsの違い
DevOpsは、開発と運用を統合し、密接な協力体制を築くことを目指すアプローチです。しかし、DevOpsの概念には抽象的な部分が多く、システム運用への具体的な適用が難しい側面もありました。
そこで、DevOpsの考え方をもとに体系化し、より実践しやすくしたアプローチがSREです。
SREでは、DevOpsの「開発と運用の統合」に加え、「信頼性」や「自動化」も中核と位置付けられています。また、「エラーバジェット」といった具体的なプラクティスも示されているため、企業が実践しやすくなっています。
なお、DevOpsとは何かをより詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
2. SREを導入するメリット
システム運用においてSREのメリットは大きく、導入する企業が増えています。企業がSREを導入するメリットは、主に次の3つです。
2-1 安定的なシステム運用を実現できる
SREを導入することで、安定的なシステム運用を実現できます。SREではシステムの継続的なモニタリングを自動化し、異常に素早く対処できる体制を構築します。
そのため、システムが障害により長時間停止するといったリスクを大幅に軽減できるでしょう。また、自動化によって人的ミスも抑えられるため、システムの安定性が向上します。
2-2 運用担当者の負担を軽減できる
SREを導入することで、運用担当者の負担を軽減できます。SREでは運用タスクの多くを自動化するため、手作業に費やす時間を削減することが可能です。
また、開発チームとの連携を強化し、両チーム間のコミュニケーションが円滑になることで、精神的なストレスも減らせます。運用タスクを効率化すれば、新しい技術の導入など、別の業務に注力できるでしょう。
2-3 アジリティの向上が期待できる
対外的にサービスを提供する企業の場合、SREの導入によってアジリティ(敏捷性)の向上が期待できます。開発や運用が効率化されることで、リリースサイクルを短縮できるためです。
またエラーバジェットのように、リリース判断を効率化できる仕組みもあります。アジリティの向上によって信頼性を維持しつつ、新機能のリリースやサービスの改善を迅速に行えるでしょう。
3. SREにおける重要なプロセス
SREのイメージを具体化するために、重要なプロセスを把握しておきましょう。SREにおける重要なプロセスは、主に次の3つです。
3-1 SLA/SLO/SLIの設定・管理
SREでは、「SLA(サービスレベル契約)」「SLO(サービスレベル目標)」「SLI(サービスレベル指標)」の3つを主な指標とします。
システムを継続的にモニタリングするうえで、これらの設定や管理が必要です。各指標について下記の表にまとめました。
名称 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
SLA | システムやサービスの「提供者」と「被提供者」の間で取り決める品質レベル。未達時にはペナルティが課されることが多い。 | サーバーの月間稼働率 |
SLO | システムやサービスにおいて目標とする品質レベル。目標値であり最低保証ではない。不確定な側面が強く、完全には保証できない指標が多い。 | リクエストに対する応答時間 |
SLI | SLOの達成状況を判断するための、より具体的な指標。 | スループット(単位時間内に処理できるデータ量) エラー率(エラーが発生したリクエストの割合) |
SREでは、こうした指標によりシステムの運用状況を可視化し、信頼性向上を図ります。
3-2 運用監視やインシデント管理の自動化
SREでは、さまざまなツールを用いて運用監視やインシデント管理の自動化を図ります。
たとえば、異常が発生した際に自動通知を行うインシデント管理ツールを用いることで、迅速な対応が可能になります。
運用監視やインシデント管理を自動化することで、運用担当者の負担が軽減されるだけでなく、障害によるダウンタイムが短縮され、システムの信頼性向上につながるでしょう。
なお、具体的に用いられるツールについて詳しくは後述します。
3-3 エラーバジェットに基づくリリース判断
SREでは、リリース判断に「エラーバジェット」を用います。エラーバジェットとは、ある期間内におけるダウンタイム(システムダウン状態の時間)の許容値のことです。
SLOにおけるシステムの可用性(ダウンせずに稼働し続けられる時間の割合)から算出できます。
たとえば、月間のシステム可用性を「99.9%」とSLOで定めた場合、残りの0.1%、つまり約43分間のダウンタイムが許容されることになります。この時間を「エラーバジェット」として、新機能などをリリースする際に参照します。
エラーバジェット以内であればリリース、そうでなければシステムの立て直しに注力します。エラーバジェットによって合理的なリリース判断が可能です。
4. SREに用いられる代表的なツール
SREでは、信頼性の高いシステム運用を実現するために、さまざまなツールが活用されます。
ここでは、SREに用いられる代表的な4つのツールを把握しておきましょう。
4-1 コンテナ管理ツール
「コンテナ管理ツール」は、アプリの仮想的な実行環境である「コンテナ」を管理するためのツールです。
コンテナ技術を使うことで、1つのコンピューター上で複数のアプリを効率よく開発・運用できるため、多くの企業が採用しています。
コンテナ管理ツールを使えば、アプリをコンテナ化したり、複数のコンテナを適切に制御したりすることが可能です。複数のアプリをコンテナ化して運用することで、運用担当者の負担を軽減できるでしょう。
代表的なコンテナ管理ツールとしては、「Docker」や「Kubernetes」が挙げられます。
4-2 インシデント管理ツール
「インシデント管理ツール」は、インシデント(早急に対処すべき異常)を一元管理できるツールです。
インシデント管理ツールを使えば、システム運用におけるインシデントの対応状況を可視化でき、開発チームや運用チームの情報共有を効率化できます。また、異常の自動通知機能を持つインシデント管理ツールも数多くあります。
インシデントはシステムの正常稼働を妨げ、信頼性を低下させる要素です。そのため、適切なインシデント管理を行うためには、ツールの活用が欠かせません。
自動通知機能を持つインシデント管理ツールとしては、「PagerDuty」や「Zabbix」などが挙げられます。
4-3 CI/CDツール
「CI/CDツール」は、CI(継続的インテグレーション)やCD(継続的デリバリー/継続的デプロイメント)を実現するためのツールです。CIやCDは、コードの変更からリリースまでの各プロセスを自動化し、継続的なリリースを実現するアプローチを指します。
CI/CDの実現には、一連のプロセスを統合した「CI/CDパイプライン」の構築が必要です。CI/CDツールを使えば、コード変更からリリースまでの各プロセスを統合し、CI/CDパイプラインを構築できます。たとえば、変更したコードをビルド・デプロイし、問題なければデプロイする、といった一連の流れをまとめて自動化できます。
SREが目指す「開発と運用の統合」において、CI/CDによるプロセスの統合が欠かせません。ただし、各プロセスの自動化にはテスト自動化ツールなど別のツールが必要です。
代表的なCI/CDツールとしては、「Jenkins」などが挙げられます。
またCI/CDについては以下の記事で解説します。
4-4 構成管理ツール
「構成管理ツール」は、システムを構成するハードウェアやソフトウェアなどの要素を一元管理するためのツールです。
システムの構成をただ管理するだけでなく、事前に定義した構成を運用環境へ適用するなど、運用の効率化・自動化につながる機能もあります。
構成管理ツールを使えば、適切な構成管理によりシステムの信頼性を保ちつつ、システム運用の自動化を図ることも可能です。
代表的な構成管理ツールとしては、「Ansible」などが挙げられます。
5. SREエンジニアに求められるスキル
SREを実践するSREエンジニアには、さまざまな知識やスキルが求められます。SREエンジニアに求められるスキルは、主に次の4つです。
- システム運用に関する知識
- SREに関するツールの知識や活用スキル
- プロセスの自動化に関する知識
- コミュニケーションスキル
SREの中核である自動化や、その実現に必要となるツールの知識は不可欠です。プロセスの自動化にあたってプログラムを作成する場合、プログラミングスキルも要求されるでしょう
また、開発チームと運用チームの連携を図るうえでは、コミュニケーションスキルも求められます。
今後エンジニアに求められるスキルについては以下の記事で紹介しています。
まとめ
SRE(サイト信頼性エンジニアリング)とは、Google社が提唱する、システム運用の信頼性に重きを置くアプローチのことです。
SREを導入することで、運用の自動化やシステムの安定性向上が図れ、結果として運用担当者の負担軽減にもつながります。
SREエンジニアを目指す方や、SREの導入を検討している方は、SREの基本的な考え方やツール、スキルを理解することが重要です。本記事の内容を参考にして、信頼性の高いシステム運用を目指しましょう。