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今後必要となる「エンジニアスキル」とは?政府調査や報道から分析
スキルアップ 2024.01.18
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今後必要となる「エンジニアスキル」とは?政府調査や報道から分析

執筆: 大木 晴一郎

ライター

最近、報道などでIT人材が不足しているとよく聞かれますが、実際にどのくらい不足し、どんなスキルを持ったエンジニアが求められているのでしょうか?

今回は「DX白書2021」や「情報通信白書」など、政府が刊行する白書や関連する資料などから、今、どんなエンジニアが必要とされているか、どんな技術やスキルが必要とされているか探ってみることにします。

ご自身のキャリアを点検する意味でぜひ参考にしてみてください。

もくじ
  1. 政府調査から見たエンジニアの「必要度」は?
  2. 海外との比較で見る日本の「IT人材」
  3. これから必要とされるおすすめスキルや職種とは
  4. まとめ:これからどうスキルを磨いていくか?

1.政府調査から見たエンジニアの「必要度」は?

2030年、IT人材が最大79万人不足する!?

経済産業省がみずほ情報総研株式会社に委託して実施した「IT人材の需給に関する調査(2019年3月)」では、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測しています。

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「IT人材の需給に関する調査」(経済産業省)より引用

この報告書でいう「IT人材」は次のように定義されています。

「情報サービス・ソフトウェア企業(Web 企業等を含む)においてITサービスやソフトウェア等の提供を担う人材に加えて、ITを活用するユーザー企業の情報システム部門の人材、ユーザー企業の情報システム部門以外の事業部門においてITを高度に活用する人材、さらにはITを利用する一般ユーザー等が存在する。(IT人材の需給に関する調査・報告書より引用)」

上のグラフを見ると、今後しばらくはITエンジニアの「超売り手市場」が続くといって良いのかもしれません。

特に「マネジメント」が不足している

人材の確保について『DX白書 2021』では以下のようにコメントしています。

「日本企業は、DX推進のために必要となる人材要件を明らかにし、人材のスキル評価や処遇といったマネジメント制度の整備をする必要がある。その上で、採用や外部人材の活用、社員の人材育成(リスキル)といった人材確保のための施策の実施が求められる。(「DX白書 2021」1-3-2より引用)」

IT人材の確保は重要な課題ですが、そのためには、必要となる人材のスキルを評価し、マネジメントし、人材育成をすることが求められています。ここまで見てきたようにIT人材の不足は明らかですが、実はそれ以上に必要とされるのが「マネジメント」能力のようです。

日本のエンジニアは「自分のスキルレベルが分かっていない」

「超売り手市場」とも言える現状に気を良くしたエンジニアの方も多いと思いますが、実は意外な事実も指摘されています。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が令和3年4月に発表した『デジタル時代のスキル変革等に関する調査』の『統合報告書』には、日本のIT人材が「自身のスキルレベルが『わからない』とする比率が日本では米、独に比べて非常に高い。(引用)」と報告されているのです。

アメリカ、ドイツに比べて自分自身のスキルに対する評価が極端に低い傾向があることが分かります。

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「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」(独立行政法人 情報処理推進機構)より引用

この状況ではIT人材が転属・転職を希望する際は、企業が求めるスキルとエンジニアが保有しているスキル・能力にミスマッチが生じる可能性があります。このスキルギャップ問題に対応する手段として、上記報告書では「IT人材」に属する方々には「保有スキル等の見える化」が求められているとしています。第三者による認証や資格の取得を考えてみる必要もありそうです。

DX時代の開発手法とは?

2023年も日本のIT、IoT政策の中心はデジタルトランスフォーメーション(DX)が中核となっていくと考えられます。

現在は「VUCA」の時代です。VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつないだ略語です。変化が激しい状況に迅速かつ柔軟に対応することが求められるようになりました。DXを推進するにあたり、不確実性が高い社会・顧客のニーズや技術の変化に対応する必要があります。

IPAの『DX白書 2021』では、環境変化が激しいVUCAの時代には顧客志向の徹底とデジタル技術の活用がカギであると指摘しています。3年~5年といった長期計画や長期戦略を立て、実行していく手法では変化に追いつくことは難しいとし、素早くニーズを具体化する「デザイン思考」、素早く開発する「アジャイル開発」、素早く安全にリリースする「DevOps」、システム開発を効率的に実施する「ノーコード/ローコードツール」が有効であるとしています。『DX白書 2021』ではこれらの開発手法の導入ポイントなどが解説されています。ここに掲げられているテーマに関連するスキルは今後、必須レベルといわれるようになるかもしれません。

2.海外との比較で見る日本の「IT人材」

『DX白書 2021』や『デジタル時代のスキル変革等に関する調査』などの白書では諸外国との比較も行っています。

そこから見る日本の現状を解説していきます。

「日本ならでは」のスキルとは

『DX白書 2021』では日本とアメリカ、『デジタル時代のスキル変革等に関する調査』日本、アメリカ、ドイツが対比されてそれぞれの違いや特徴が示されています。『DX白書 2021』では日米比較調査は主要テーマの一つです。

例えば、前述の企業変革を担うリーダーについて『DX白書 2021』では「第3章 デジタル時代の人材」で「リーダーシップ・実行力・コミュニケーション能力を重視する日本、顧客・業績・変化・テクノロジーリテラシーを重視する米国」としてアンケート調査をして日米対比をしています。ここでは以下のようにまとめられています。

「DX推進を牽引するうえでリーダーに求める重要な資質として、米国企業が顧客や業績などの成果評価と関連する項目を重視するのに対して、日本企業ではリーダーシップや実行力といった個人の能力を重視していることがうかがえる。(「DX白書 2021」1-3-1より引用)」

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『DX白書 2021』(独立行政法人 情報処理推進機構)より引用

必要とされるスキルは国により違いはないようですが、DXの進捗状況には大きな違いが見られます。『DX白書 2021』では、アメリカ企業の53.4%が「2016年以前」からDXへの取り組みを開始しており、日本企業は「2020年(31.7%)」としています。この時期の差がそのまま状況の違いになっていると指摘されており、上図のように特に製造業、流通業、小売業での差が大きくなっています。

これらを踏まえた上でDX戦略を立案していくのがカギとなりそうです。この取り組みの差はリーダーシップの差とも捉えられます。今、日本にはDXリーダーが必要とされているのかもしれません。

日本の「IT人材」はICT企業に偏在している

総務省の『情報通信白書』では、日本の特徴として「IT人材」(ICT人材)がICT企業に偏在していて、企業がDXを推進するには人材不足が大きな課題となっていると指摘しています。

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『情報通信白書(総務省)』より引用

しかし、IPAの『デジタル時代のスキル変革等に関する調査』では「IT企業と事業会社が求める人材の差が無くなりつつあり、その獲得競争の激化が予想される。(引用)」と述べており、今後はIT人材の取り合いがはじまる可能性もありそうです。

3. これから必要とされるスキルや職種を探ってみる

今後、必要とされるであろうスキルや職種について解説していきます。

「先端領域」や「AI」関連の人材が特に不足する

DXを推進するため、今後IT人材がより必要とされていくのは明白です。中でも先ほどの先端領域を学びアジャイル開発/DevOpsを使いこなすような人材は引く手数多のはず......ですが、興味深いデータも示されています。

『デジタル時代のスキル変革等に関する調査』には「IT人材がAIやIoT、アジャイル等の先端技術領域や領域スキルを学んだ場合、活かす場はありますか」との質問に企業が答えた結果が掲載されています。

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『デジタル時代のスキル変革等に関する調査』(独立行政法人情報処理推進機構)より引用

驚かされるのは、IT人材が先端技術者へと転換した場合、活躍の場はあるかという問いに「ほとんどない」「わからない」と答えた企業が合計で約37%に至ったことです。上の表はその結果を示したものですが、DXで何らかの成果を上げている上段の企業でも合計20.3%、成果のない下段で合計37.3%が活躍の場は(今のところ)ないか、ほとんどないようなのです。

安心していただきたいのは、上で述べたように「IT人材の需給に関する調査」によると、2030年にはIT人材は最大79万人不足すると予測されています。さらに、データサイエンティストなど「AI人材」は2025年時点で約8.8万人~9.6万人が不足すると予測されています。
ディープラーニング等に精通したAIエンジニアはDXの先端領域の担い手として今後しばらく人材不足の状況が続くことになるでしょう。

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「IT人材の需給に関する調査」(経済産業省)より引用

「先端領域」に関するスキル

先ほどの『IT人材の需給に関する調査』では、今後、「必要なIT人材を確保するためには、単にIT人材の数を増やすのではなく、生産性の向上や需要増が予想される先端技術に対応した人材の育成が重要である(引用)」と指摘しています。

ここで「先端」とはどのような領域を指すのでしょうか? IPAの「デジタル時代のスキル変革等に関する調査報告書」では以下のように「先端」を定義しています。

「先端は、データサイエンス、AI・人工知能、IoT、デジタルビジネス/X-Tech、アジャイル開発/DevOps、AR/VR、ブロックチェーン、自動運転/MaaS、5G、その他先端領域の各領域に関するサービスに従事する人材とし、それ以外を非先端とする(「デジタル時代のスキル変革等に関する調査報告書」より引用)』

IT人材の中でも特にDX人材、「先端」領域人材へのニーズが今後はさらに高まっていくと予想できます。このキーワードに関連する技能が「求められるスキル」であるといえそうです。ここまでに出てきたキーワードをまとめてみます。

エンジニアが学んだり身につけたりしておくと良さそうなテーマ/知識/スキル一覧
・デザイン思考(デザインシンキング)
・アジャイル開発/DevOps
・ノーコード/ローコードツール
・データサイエンス
・AI・人工知能
・IoT
・デジタルビジネス/X-Tech
・AR/VR
・ブロックチェーン
・自動運転/MaaS
・5G
(順不同)

アジャイル/DevOpsに必要とされる「テストスキル」

アジャイル/DevOps開発を短い期間のスプリントで回していくとき、重要になってくるのがテストを行い、システムの品質を保証する「品質保証担当」です。

『DX白書 2021』では、今後、テスト駆動開発や継続的インテグレーション/継続的デリバリー、テスト自動化などのキーワードを使い、以下のようにテスト戦略の重要性を説明しています。

「品質保証担当とは、チームの中で、品質に関する検討をリードする役割である。アジャイル開発ではテスト駆動開発や継続的インテグレーション/継続的デリバリー(Continuous Integration; CI / Continuous Delivery; CD)に基づくテストの自動化といった手法も含めて、テスト戦略も重要となる。具体的にはコーディングルールの整備やチェックの自動化、レビュー頻度の決定、ブランチ戦略(機能の違う複数の開発を同時に進める場合に、相互に影響が少なくなるよう分離・統合する際の取り決めや考え方)の立案、レビュー観点・運用方法の整備、評価指標の決定、社内のリリース判定との整合性など、多岐にわたるが、これらの戦略をリードする存在が品質保証担当である。(『DX白書 2021』4-1-3より抜粋引用)」

『DX白書 2021』では『第4部 DXを支える手法と技術』第1章を中心にテストや品質保証の重要性についてたびたび言及されています。

「リーダーシップ」「プロジェクトマネジメント力」

今後、日本が諸外国に比してみたときのDX推進の遅れを取り戻すにはIT人材の確保が重要です。とくに舵取り役となるリーダーの重要性は増していくばかりです。

『DX白書 2021』でもこの点を繰り返し指摘しています。「企業変革を推進するためのリーダーにあるべきマインドおよびスキル」について、日米で調査を行った結果も示されています。

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『DX白書 2021』(独立行政法人 情報処理推進機構)より引用

4. まとめ:これからどうスキルを磨いていくか?

「デジタル時代のスキル変革等に関する調査報告書」では、DXで成果を上げている多くの企業は「学び」を積極的に支援していて、勉強会やコミュニティへの参加などにも何らかの支援を行っていることが多いと指摘しています。

エンジニアに目を向けると、グロースマインドセットの醸成が重要で、キャリアに対して主体性を持ち、学び続けることを常識化することが大切だとまとめられています。

スキルを磨き、キャリアアップを目指すには学び直し(リスキル)とスキルの可視化がポイントだといえそうです。

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執筆: 大木 晴一郎

ライター

IT系出版社等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集を経験。その後、企業公式サイト運営やWEBコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター、企画編集者として記事の企画・編集・執筆に取り組んでいる。