ソフトウェア開発の現場において、「仕様変更への対応」は避けて通れない課題の1つです。開発が進んでからの仕様変更は、大幅な手戻りを招き、コストの超過や納期の遅延に直結します。「なぜ仕様変更がなくならないのか」「どうすれば防げるのか」と頭を抱えている方も少なくないでしょう。
仕様変更を完全になくすのは困難ですが、発生原因を理解し、適切な対策を講じれば発生頻度を減らせます。本稿では、仕様変更が発生する主な原因と対策、避けられないケース、仕様変更に強い開発を目指すためのポイントを解説します。
- もくじ
1. ソフトウェア開発で仕様変更が発生する原因と対策
ソフトウェア開発における仕様変更は、ユーザー(発注者)側の要望だけでなく、開発プロセス全体や関係者間の進め方に起因するケースも少なくありません。これらの中には開発側(受注側)事前に防げるものもあるため、適切な対策を把握することが大切です。
ここでは、仕様変更が発生する主な5つの原因と、それぞれの対策をご紹介します。
- 原因①要求の分析が不十分
- 原因②要件にあいまいな箇所がある
- 原因③完成イメージにズレがある
- 原因④合意形成がおざなりになっている
- 原因⑤非機能要件の考慮が不十分
原因①要求の分析が不十分
顧客自身も解決策を明確にイメージできていないケースや、本質的な課題に気づいていないケースは往々にしてあります。顧客の要求を十分に分析せずに開発を進めると、完成後に「想定していたものと違う」と言われるリスクがあります。
このような仕様変更を防ぐためには、要求分析の方法を見直す必要があります。表面的な要望だけを受け取るのではなく、その先にある背景や目的まで掘り下げたうえで進めることが重要です。
考えられる主な対策は、次の2つです。
- 背景や目的を綿密にヒアリングする
- ユーザーストーリーを可視化・共有する
表面的な機能要望だけでなく、「どのような経緯で必要になったのか」「何のために使うのか」といった背景や目的を綿密にヒアリングしましょう。これにより、顧客自身も気付けていない真のニーズや課題に気づきやすくなります。
また、ユーザーストーリー(ユーザー視点の要求仕様を言語化したもの)を作成し、顧客と共有する手法も有効です。ユーザーストーリーについて詳しくは、次の記事を参考にしてください。
原因②要件にあいまいな箇所がある
一般的に、ソフトウェア開発はユーザー側の「要求(何を実現したいか)」から始まり、その要求に沿って「要件(満たすべき条件)」や「仕様(具体的な実装内容)」を整理していきます。
このうち、要件を決める段階であいまいな表現が含まれていると、開発者やステークホルダーの間で解釈にバラつきが生じてしまいます。たとえば、要件定義書に「適切に表示する」のように抽象的な表現があると、解釈の違いを生み、後々の仕様変更を招きやすいです。
このような仕様変更を防ぐためには、要件を具体化するための対策が求められます。具体的に考えられる主な対策は、次の3つです。
- 用語集などで言葉の定義を統一する
- 定性的な表現を避け、定量的な基準を用いる
- 第三者視点のレビューを取り入れる
ドキュメント内で使用する言葉の定義を、あらかじめ用語集などで整理するのが効果的です。たとえば、要件定義書の冒頭に「用語の定義」などの形で専門用語の定義をまとめておけば、ステークホルダーとの共通理解を持てます。
また、「高速に」ではなく「1秒以内に」のように、可能な限り数値や明確な基準を用いて記述することも重要です。そのうえで、開発者以外の立場(QAチームなど)を交えた第三者レビューを実施することで、開発側の「暗黙の了解」で見過ごしがちなあいまいな箇所を検出できるでしょう。
原因③完成イメージにズレがある
開発側と顧客側で、完成イメージにズレを抱えたまま進んでしまうケースも少なくありません。開発終盤になって実際の画面を見た顧客から「イメージと違う」といった要望が出てくれば、仕様変更を余儀なくされてしまいます。
このような仕様変更を防ぐためには、可能な限り早い段階で具体的なイメージを共有し、認識をすり合わせることが重要です。考えられる主な対策は、次の2つです。
- モックアップやプロトタイプを用意する
- ユースケースで利用シナリオを具体化する
開発の初期段階で、モックアップ(画面サンプル)やプロトタイプ(試作品)を作成し、見たり触れたりできる形でイメージを共有しましょう。この段階で顧客のイメージと違っていれば、早い段階で軌道修正が可能です。
また、具体的なユースケース(利用シーン)を想定し、「どのような業務フローでシステムを利用するのか」を顧客と一緒に確認するプロセスも有効です。
原因④合意形成がおざなりになっている
仕様に関する合意形成がおざなりになっていると、プロジェクトの途中で意思決定が覆り、仕様変更につながることがあります。特に、意思決定者や承認プロセスがあいまいなまま進行している場合、このリスクは高まります。
「現場担当者とは合意していたが、後から決裁権を持つ上長が反対した」といったケースは珍しくありません。合意の範囲や責任者が不明確だと、鶴の一声で大きな変更を求められる恐れがあります。
このような仕様変更を防ぐためには、承認プロセスをあいまいにせず、確実な合意形成を積み重ねていくことが大切です。考えられる主な対策は、次の2つです。
- 意思決定フローを明確にする
- 関係者レビューを定期化する
プロジェクト開始時に、誰が承認を行うのか、どのようなフローで意思決定を行うのかを明確にしておきましょう。また、要件定義や設計の節目で関係者とのレビューを定期的に実施し、決裁権を持つキーマンを含めて合意を得ながら進めることが重要です。
原因⑤非機能要件の考慮が不十分
機能要件(何ができるか)ばかりに目が向き、非機能要件(どう振る舞うか)の考慮が不十分だと、手戻りの原因になります。性能やセキュリティ、ユーザビリティ(使いやすさ)など、非機能要件は検討が後回しにされやすいのが実情です。
たとえば、「やりたいことはできているが、処理が遅すぎる」といった性能面の課題を後から指摘されるケースはよくあります。最悪の場合、設計やアーキテクチャの根本的な見直しが必要になりかねません。
このような仕様変更を防ぐためには、プロジェクトの初期段階から非機能要件についても議論し、定義しておく必要があります。考えられる主な対策は、次の2つです。
- 非機能要件チェックリストを導入する
- 性能・運用要件を初期設計へ反映する
IPA(情報処理推進機構)が公開している「非機能要求グレード」などを参考にチェックリストを導入し、非機能要件の定義漏れを防ぎましょう。また、性能や運用に関する要件を初期段階で明確にし、それを設計に反映させることも大切です。
2. ソフトウェア開発で仕様変更が避けられないケース
現実には、どれほど綿密に仕様を検討しても、外部要因によって仕様変更が避けられないケースも存在します。ここでは、代表的な3つのケースを見ていきましょう。
- ケース①顧客側の状況変化
- ケース②市場・社会環境の変化
- ケース③外部システム・技術環境の変化
ケース①顧客側の状況変化
顧客のビジネス環境や社内事情の変化により、仕様変更を余儀なくされるケースは珍しくありません。たとえば、担当者の交代による方針転換、予算の縮小、急な事業戦略の変更などが挙げられます。
これらは、開発側の努力だけで完全にコントロールすることは不可能です。プロジェクトの前提そのものが変わってしまうケースもあるでしょう。
ケース②市場・社会環境の変化
市場のトレンド変化や社会情勢の変動も、仕様変更の引き金となり得ます。
たとえば、開発期間中に競合他社が新サービスをリリースした場合、対抗するために機能の追加や変更が必要になるケースがあります。また、予期せぬ法改正や制度変更に対応するため、急遽仕様を変えなければならない事態も考えられます。
このような変化を完全に予見し、先手を打つことは現実的に難しいでしょう。
ケース③外部システム・技術環境の変化
連携している外部システムの仕様変更や、使用している技術のアップデートにより、対応を迫られるケースもあります。
たとえば、利用していたAPIの仕様が変わる、OSやミドルウェアに脆弱性が見つかりバージョンアップが必要になる、といったケースです。これらはセキュリティやシステムの安定稼働に関わるため、避けては通れない変更といえます。
3. 仕様変更に強いソフトウェア開発を目指すには
仕様変更は完全に防げるものではありません。そのため、変更が発生しても柔軟に対応できる体制や設計を整えておくことが大切です。
ここでは、仕様変更に強い開発を目指すための2つのアプローチをご紹介します。
- ①仕様の管理方法を見直す
- ②仕様変更を考慮した設計を行う
①仕様の管理方法を見直す
仕様変更が発生した際に、影響範囲を即座に把握できるよう、仕様の管理方法を見直しましょう。
代表的な手法の1つとして「USDM(Universal Specification Describing Manner)」が挙げられます。USDMとは、要求と仕様を階層構造で整理し、それぞれの対応関係を明確にする記述方法です。
USDMを導入すれば、ある要求に変更があった場合、どの仕様に影響するのかを迅速に特定できます。USDMについて詳しくは、次の記事を参考にしてください。
②仕様変更を考慮した設計を行う
ソフトウェア設計の段階で、変更に強い構造を取り入れることも重要です。仕様変更を考慮した設計を行えば、仮に仕様が変更されても大きな手戻りの発生は防げます。たとえば、機能ごとにモジュール(部品)を分割して依存関係を減らす、拡張性の高いアーキテクチャを採用するなど、変更時の影響を最小限に抑える工夫が求められます。
なお、仕様変更に強い設計スキルを磨くうえでは、専門の講座を活用するのも効果的です。バルカレのオープン講座「仕様変更に負けない! 手戻りのないソフトウェア設計」では、ソフトウェア品質のプロから実践的な設計手法を学べます。
「変更が入るとバグが出やすい」「どこを直せばいいか分からない」といった悩みを抱えている方は、ぜひ受講を検討してみてください。
4. まとめ
ソフトウェア開発における仕様変更は、要求分析の不足やあいまいな要件定義など、上流工程での詰めが甘い場合に発生しがちです。これらは、ヒアリングの徹底や認識合わせの工夫などによって、ある程度は防止・抑制できます。
一方で、顧客の状況変化や外部要因など、避けられない仕様変更も存在します。大切なのは、変更を減らす努力をしつつ、万が一変更が発生しても柔軟に対応できる管理体制や設計を整えておくことです。
今回の内容を参考に、仕様変更に強いソフトウェア開発を目指してみてください。




