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マネジメント 2023.04.04
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民法改正により契約不適合責任がソフトウェア開発に与える影響と検証による企業価値の向上

執筆: Qbook編集部

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民法改正により契約不適合責任がソフトウェア開発に与える影響と検証による企業価値の向上

民法(みんぽう)とは、買い物や商取引などの契約に関するルールや、事件・事故があった場合の損害賠償に関するルールを定めた、生活の基本となる法律です。民法は1896年に制定され、その後、債権関係の規定(契約等に関する部分)はほとんど改正されることなく約120年が経ちましたが、その間に時代遅れとなってしまったルールや、重要なルールであるにもかかわらず法律として制定されていないものがあると言われてきました。

そうした背景のもと、2017年5月26日に民法改正法が成立し、2020年4月1日から一部新ルールが施行されることになりました。実はこの民法改正により、IT業界、とくに請負やSES事業者も影響を受けるため、対応が必要となります。そこで本記事では、ソフトウェア開発において重要となる民法の変更内容と、変更に伴う対応方法について説明します。

2020年から変わる民法とIT業界への影響

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2020年4月1日より改正民法が施行されますが、IT業界の事業者が影響を受けるのは、主に契約に関するルール変更です。

IT業界の契約形態は、大きく分けて「請負契約(うけおいけいやく)」「準委任契約(じゅんいにんけいやく)」があります。

請負契約とは、成果物を完成させることが義務付けられている契約形態であり、発注元の要求通りの製品を納品する必要がある契約形態です。これに対し、準委任契約とは成果物を完成させることが義務ではなく、業務を処理することが契約内容です。

請負契約の場合は、仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであった場合、請負人は契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)を負い、注文者は請負人に対して契約解除や損害賠償の請求を行うことができるという契約です。

IT業界において、瑕疵担保責任が発生する典型的なケースとしては、納品したソフトウェアやシステムにバグの存在が発覚した場合が挙げられます。

上記の契約不適合責任は、民法改正前においては瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)と呼ばれていました。改正前の規定では、発注者が開発者に対して瑕疵担保責任として請求できたのは「修補請求、契約解除、損害賠償請求」でしたが、改正後はこれらに加えて一定の場合には「報酬減額請求」ができるようになります。

つまり、発注者が、契約不適合箇所の補修をするように相当の期間を定めて催告したにもかかわらずその期間内に補修が行われなかった場合や、補修が不能である等の場合には、発注者は受注者(開発者)に対し、「品質が基準を満たしていないので値下げをして欲しい」と請求する権利が生まれたのです。

また、担保責任に基づく請求をできる期間も変わります。民法改正前は、瑕疵担保責任を追及できる期間は納品時から1年以内でしたが、改正後の契約不適合責任では、ユーザー側が不具合を知ったときから1年以内に請求できる、に変わります。つまり、発注者が瑕疵担保責任を追及できる期間が延長されたのです。

ここだけでは発注側が一方的に優位になったように見えますが、不具合が知られない限り半永久的に責任追及できるというわけではなく、納品時から最大10年以内という上限が設けられています。

さらに、請負契約は仕事の完成を目的とする契約なので、契約通りの成果物を受け取ってからしか報酬を受け取ることができないのが原則ですが、改正後民法には、仕事の完成が不能となった場合及び完成前に契約が解除された場合に、途中まで作成した成果物で発注者が利益を得られているのであれば、プロジェクトが中断したとしても利益の割合に応じて報酬の請求が可能になるとの規定が明文化されました。

続いて準委任契約については、成果物を納品することで発注者に報酬を請求できる「成果完成型」の契約が可能であることが明文化されました。すなわち準委任契約は、開発に要した労働時間などで報酬を算出し請求する、一般的な形態(「履行割合型」と呼ばれるもの)と、成果物の納品を要する形態(成果完成型)に分かれることが明確になりました。準委任契約を結ぶ際には、契約を結ぶ目的を踏まえて、履行割合型、成果完成型のいずれの形態を採るのかを決める必要があります。

信頼のおけるベンダーと組む

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改正後のポイントは、契約書や仕様書等のお互いの合意内容で定められた品質を満たしているか否かが、契約不適合責任発生の有無を左右することになります。

一口にソフトウェアの品質といってもその定義は難しいものです。最低限達成すべき水準として、バグを最小限に抑えなくてはなりませんが、システムが動かなくなるような致命的なバグもあれば、仕様の解釈の齟齬によって、開発者が問題ないと考えている箇所をバグと指摘されてしまうケースもあります。

そのため、品質トラブルを回避するためには、発注者との間であらかじめ品質定義の明確化を行う必要があります。

これは、他社ベンダーに開発を依頼する場合でも同様です。巨大なシステムを開発する場合、どうしてもそのすべてを自社内だけで完結させることができず、他社ベンダーに部分的な開発を依頼するケースも少なくありません。このように他社ベンダーに依頼する場合も、明確な品質基準を提示するとともに、しっかりとした検品の体制を確立する必要があります。

明確な基準を設ければ、他社ベンダーと取り組んだとしても明確な品質管理を行うことができるため、不具合の管理がしやすくなります。そうした基準をクリアできる、つまり信頼できるベンダーと組み、品質の管理を行うことが重要です。

従業員教育により企業全体の質を上げていく

とはいえ、品質管理の体制を構築することは容易ではありません。粘り強く従業員教育を行い、企業全体の質を高めていくことが必要です。

優秀な開発者を抱えるベンダーは一定数存在するものの、社内で統一した品質基準を持つベンダーは多くありません。個々の人材が優秀でも、多くの人間が関わり合って働いている開発の現場では、統一された品質の基準がなければ、それぞれが何をゴールとして開発したらよいのかわからなくなってしまいます。

そのため、自社において基準とする品質の考え方を明らかにし、その品質基準を測定するソフトウェアテストの手法など、明確なゴールを設けることが重要です。そして、定める品質に到達する製品を開発できるように人材を育成していく必要があるでしょう。

スポーツに例えるならば、正しいルールを学び、ルールに則って正しくプレイし、反則すれすれのプレイやラフプレイをしない選手を育てることに似ています。ただ、社員教育はと大切かつ有効ではあるものの、それだけでは不十分な場合もあります。

第三者検証企業の利用

プレイヤーがどんなに一生懸命ルールを学んだとしても、それだけでは、必ずしも正しくルールが守られるわけではありません。そこで求められるのが「正しいジャッジを下す審判」です。この「正しいジャッジを下す審判」に該当するのが、第三者検証企業です。

平成25年6月にIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)によって公開された「製品・システムにおけるソフトウェアの信頼性・安全性等に関する品質説明力強化のための制度構築ガイドライン(通称:ソフトウェア品質説明のための制度ガイドライン)第1版」では、製品・システムの品質について、第三者による確認制度を設ける必要がある旨を説明しています。

本ガイドラインにおいて、第三者による品質確認時の要求事項は「公正性の確保」「整合性の確保」といった観点からまとめられており、さまざまなソフトウェアやシステム開発において、第三者機関としての業界団体などが、公正かつ整合性のとれた確認制度を構築する方法が記載されています。

参考:IPA|通称:ソフトウェア品質説明のための制度ガイドライン

おわりに

自分の間違いは、自分では気づきにくいものです。さらに、開発者視点と使用者側の視点は異なります。品質に関して不安要素がある場合は、客観的な視点を入れるべく第三者検証企業に依頼することもひとつの方法です。先入観のない第三者の視点が介入することで不具合の発見率が高まるとともに、テストのコストも削減されるというメリットもあります。

民法改正における変更点を理解し、内外の品質管理体制を整え、時には外部の第三者検証企業の利用を検討するなど、民法改正法の施行後に慌てないように準備をしていきましょう。

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執筆: Qbook編集部

ライター

バルテス株式会社 Qbook編集部。 ソフトウェアテストや品質向上に関する記事を執筆しています。